読書の愉楽

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ジェフ・カールソン「凍りついた空 エウロパ2113」

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 未知との遭遇物としてのこちらの期待を裏切る展開に少しとまどった。どういうことかを説明して本書の感想としたい。

 

 22世紀初頭の人類は宇宙に進出して、本書の舞台となる木星の衛星エウロパにも複数の探査チームが拠点を定め氷の世界で調査を続けていた。エウロパは太陽から遠く離れているので表面に液体の水は存在しない。摂氏マイナス162℃という驚異的な寒さの星は厚いところで20キロメートルの氷におおわれている。大きさは月とほぼ同じ。きわめて希薄ながら酸素の存在も確認されている。宇宙空間で作業するすべての機械、船、ステーションは核融合炉で動く。エウロパは無限の重水素供給地として天然の給油所の役割を担っていた。

 

 本書の主人公であるボニ―は、国際科学探査チームの一員としてこの星で調査をしていたが、一緒にいた仲間二人を氷の崩落によって失う。実をいうと、その事故は仲間の一人である中国籍のチョウ・ラムが不用意に氷壁にピンを突きたてたために起こった人為的な事故だったのだ。彼女はチョウ・ラムの記憶ファイルをつぎはぎして仮想人格を作成した。彼をデーターの世界で再構成し、氷の世界から脱出する手助けにしようと試みるが、容量が足りずに人工知能(AI)としては感情的にはしるなど、エラーが頻発する。そんな中、彼女は未知の生物と遭遇する。だがその生物は集団で彼女に襲いかかってきたのだった。

 

 このあと、命からがら逃げ切ったボニ―は欧州宇宙機関支援ミッションチームに救助される。そして、人類初の地球外生命との遭遇をめぐって、地球諸国の利害関係も含めて、きわめて政治的な暗躍と陰謀を盛りこみながら、物語はすすめられてゆくのだが、どうもぼくはこの部分が気に入らなかった。

 

 もちろん、宇宙開発は国家レベルのプロジェクトなのだから、そこに国際問題が発生するのはよくわかるのだが、ぼく個人としてはもっとこの未知の生物との接触をドラマティックに描いてほしかったと思うのである。個々の関係としての未知との遭遇をもっと読みたかった。その点で、当初の期待とは少し違った読後感になってしまった。暴走していたラムの仮想人格が最後に素晴らしい活躍をする部分もありきたりではある。この設定が出てきた時点で、ああ、そういうことなんだなとわかってしまうから面白みも半減する。そして何より、この内容にしては紙幅がありすぎるとも思うのである。未知の生物の生態についてもあまり踏みこんで描かれてなかったし、そういった点で不満が残った。