読書の愉楽

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藤崎翔「神様の裏の顔」

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 第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作である本書は元お笑い芸人が書いたってところが売りなんだろうけど、これがかなりおもしろいミステリだった。大賞受賞だから、あたりまえか。

 

 ストーリーを軽く紹介すると、誰からも敬愛され、係わったすべての人から慕われた坪井誠造のお通夜の会場から物語は幕を開ける。元中学の校長であり、退職後も貧困家庭や不登校の子どもをサポートするNPOに参加し、自宅の隣に建てたアパートでは破格の家賃で店子に貸し、人に尽くしてばかりの生涯を終えたまるで神のような男のお通夜。その一夜の出来事が描かれている。

 

 登場人物は限られている。坪井氏に係わったさまざまな人がお通夜の席で彼を偲んで話をしていくうちに意外な事実がつぎつぎと浮上して・・・・・。

 

 ここまでだね。これ以上書くと反則だ。ネタばれの危険もあるしね。本書の構成は、このお通夜に集まった人々の主観ですすめられてゆく。それぞれの人物の名前が冠してあり、その人物視点で話がすすめられてゆくのだ。誠造の娘であり喪主の晴美。その妹の友美。かつての教え子だった晴美の同級生の斎木。元同僚で誠造を心から尊敬していた根岸。誠造の隣人でボケがはじまった旦那の事でかなりお世話になっていたおばあちゃん香村さん。誠造のアパートの店子でかつての教え子でもあるギャルの鮎川。そしてこちらもアパートの店子であり、ネタの勉強のためにお通夜を体験しにきたお笑い芸人の寺島。みんなそれぞれ坪井誠造とは係わりをもっている。みんな彼に世話になっていて、多かれ少なかれ彼のことを敬愛している。だが、ちょっとしたきっかけから、一人の人物が疑問を持ちはじめる。あれ?おかしいぞ。神様か仏様といわれていた坪井誠造だが、もしかして彼には裏の顔があったのではないか?おっと、あぶないあぶない。また書きすぎるところだった。さっき一回ブレーキかけたのにまた書きすぎるところだった。

 

 とにかく本書はその真相に驚くね。そういうことだったのか、とまた最初に戻ってどういう書き方されてたっけ?と確認したくなること請けあいだ。もうラスト40ページってところで、たった一行、あれ?って描写がでてくる。すごい違和感なんだけど、そこでは真相がわかってないから戸惑ってしまう。疑問に思いながらも読みすすめていくと、ああそういうことだったのか!と驚くことになるのだ。

 

 そして、もうひとつウマいなあと思ったのがこの本のタイトルだ。ラスト一行で、タイトルのもうひとつの意味がグワッと浮上してプツンと終わってしまうのである。ここでまた、ヤラれたと快く本を閉じることができるのだ。う~ん、なかなか素晴らしいミステリでしたぞ。二作目も是非読みたい。はやいとこお願いしますよ。