読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

朝宮運河 編 「家が呼ぶ --物件ホラー傑作選」

家が呼ぶ --物件ホラー傑作選 (ちくま文庫)

 

 

 朝宮運河氏が編んだちくま文庫のホラー・アンソロジーで、こちらはタイトルのごとく『家』を題材にした物件ホラー傑作選なのであります。前回読んだ「宿で死ぬ」より身近な題材だから、よりゾゾれる作品が多いのでは?と期待して読んでみた。収録作は以下のとおり。

  若竹七海 「影」

  三津田信三 「ルームシェアの怪」

  小池壮彦 「住んではいけない!」

  中島らも 「はなびえ」

  高橋克彦 「幽霊屋敷」

  小松左京 「くだんのはは」

  平山夢明 「倅解体」
 
  皆川博子 「U Bu Me」
  
  日影丈吉「ひこばえ」

  小池真理子 「夜顔

  京極夏彦 「鬼棲」

 錚々たるメンバーではありませんか。若竹、小松、皆川の三作は既読だったけど、例のごとく記憶の彼方だったので、あらためて楽しめた。でも「影」の中の自分の前にある影の話とか、「くだんのはは」の臭い血と膿で汚れた繃帯とかはよく覚えていた。やはり、そういうインパクトはなかなか薄れない。新しく読んだ中で印象に残ったのは三津田信三 「ルームシェアの怪」と日影丈吉「ひこばえ」かな。怖さという点でね。前者は、常套な作りなのだが、映像的なインパクトはなかなかのもの。ていうか、ぼくは小6か中学生の頃に観た映画の「魔界転生」で、緒方拳演じる宮本武蔵が割れ戸の隙間からこちらを見ている場面でちんちん引っ込むくらいビビったので、それがトラウマになっていて、こういう場面に弱いのだと思う。なにがなにやらわからん人は、両方接してみてください。
 後者は、静かな筆勢で語られていてさほどでも?と感じるのだが、その現象の描写がなんともおそろしい。半分って………。でも、主人公の男がなんとも奇妙に映るのも確か。だって、赤の他人にそれほど関わろうとするかな?

 あとは、みな平均点以上のおもしろさ。小池壮彦「住んではいけない!」はドキュメンタリーの迫真性があって、臨場感をあじわえる。京極夏彦の「鬼棲」は、理路整然と語られる、予感と予測と予知の話が秀逸。ああ、なるほどと感心した。

 というわけで、このアンソロジーなかなか楽しめます。