読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2014-01-01から1年間の記事一覧

柴田元幸 編訳「燃える天使」

ジョン・マクガハン、パトリック・マグラア、マーク・ヘルプリン、スチュアート・ダイペック、ピーター・ケアリーなどなど翻訳好きにはよく知っている作家も収録されていて、なかなか楽しめる。 内容的には、それぞれまったく独立したテーマの作品が収録され…

ジェイムズ・エルロイ「クライム・ウェイヴ」

本書は小説や犯罪ルポやエッセイなどを収めたエルロイの作品集だ。普通、こういうフィクションとノンフィクシションが混在してる本を読むと、それが同じ作者のものであったとしても温度差を肌で感じてしまうものなのだが、エルロイはその境界がまったくなく…

コニー・ウィリス「混沌ホテル」

ベスト・オブ・コニー・ウィリスということで、彼女の中・短編のヒューゴー賞、ネビュラ賞を受賞した作品ばかりを集めてある。本国では一冊で刊行されているのだが、日本ではユーモア編、シリアス編の二冊本で刊行されていて、本書はそのユーモア編というこ…

法条遥「リライト」

大地が揺らぐような、世界が崩壊するような大きな瓦解的変化に足元をすくわれる。ミニマムからマキシマムへ、個々人の特定された世界からいきなりの異次元へ。本書はそんな陥穽につき落とされるような衝撃によって幕を閉じる。 一九九二年七月一日に転校生と…

皆川博子「アルモニカ・ディアボリカ」

前回の「開かせていただき光栄です」の事件から5年。いまは盲目の判事ジョン・フィールディングの元で働いている解剖医ダニエル・バートンのかつての若き弟子たち。犯罪を抑止する目的の新聞を作っている彼らのもとに奇妙な屍体の身元情報を得るための広告…

夏目漱石他「もっと厭な物語」

やはり出ました「厭な物語」の第二弾。前回のアンソロジーがかなり好評だったってことだねこれは。 ちょうど一年ぶり?今回は国内の作家も混じっての厭な物語。ラインナップは以下のとおり。 『夢十夜』より 第三夜 夏目漱石 私の仕事の邪魔をする隣人たちに…

映画の魔

タイトルは忘れたが、男が迷子になった娘を探して夜の街を走りまわっている映画があった。最初はすぐに見つかると思っていたのにまたたく間に一時間が過ぎ、次第に焦りが出てきて必死になってゆく。主演の俳優の表情が苦悶にみちていて、観ているぼくもつい…

リチャード・ミドルトン「屋根の上の魚」

本書は書肆盛林堂が盛林堂ミステリアス文庫としてネット販売している本なので、本屋にもおいてないしAmazonでも購入できない。本書には若くして自死した英国の小説家リチャード・ミドルトンの短編が11編収録されている。訳者は南條竹則、東雅夫が序文を書…

神坂次郎「今日われ生きてあり」

本書は、特攻出撃によって散華していった若者たちが愛する家族や世話になった人たちに宛てた手紙、遺書、それから自身の心情を吐露した日記、そして最後まで彼らを支え続けた関係者の談話によって構成された魂の記録である。これまでぼくはこの特攻に関する…

アンドリュー・カウフマン「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」

カナダのオンタリオ州にある北アメリカ銀行第117支店で起こった銀行強盗事件。だが、その強盗は金を要求せず店内にいた人すべてに今持っているものの中で一番思い入れのあるものを差し出せという。安物の腕時計、子どもの写真、読み古したカミュの「異邦…

レオ・ペルッツ「ボリバル侯爵」

1800年初頭、ナポレオンはスペインを征服せんとスペインの王を退位に追いこみボナパルト王朝を樹立してしまう。しかし、スペイン内地ではそのことを受け入れられない民衆が当時フランスと対抗していたイギリスと手を組みゲリラとして抵抗していた。やが…

デイヴィッド・J・スカウ編「シルヴァー・スクリーム(上下)」

これ本国で刊行されたのが1988年だって。いくらなんでも翻訳出るの遅すぎでしょ。ま、それはともかくそんな昔に編まれたアンソロジーにも関わらず、本書はかなり読み応えのある刺激的な作品揃いだからうれしくなってしまう。多くの作品の中から幾つかピ…