このアンソロジーにはミステリ好きにはたまらない粒よりの作品ばかりが収録されている。刊行されたのは1991年、おお、15年も前だ。
収録作は以下のとおり
『仕組まれた話』
○ 「女か虎か」 F・R・ストックトン
● 「謎のカード」 C・モフェット
○ 「穴のあいた記憶」 B・ぺロウン
● 「なにかが起こった」 D・ブッツァーティ
『狐につままれた話』
○ 「茶わんのなか」 小泉八雲
● 「ヒギンボタム氏の災難」 N・ホーソーン
○ 「新月」 木々高太郎
● 「青頭巾」 上田秋成
『雲をつかむ話』
○ 「なぞ」 W・デ・ラ・メア
● 「チョコレット」 稲垣足穂
○ 「おもちゃ」 H・ジェイコブズ
このアンソロジー、リドル・ストーリーというコンセプトのもとに編まれている。
リドル・ストーリーとは結末をみない物語のことだ。この手の話として嚆矢とされているのが本編にも収録されているストックトンの「女か虎か」だ。詳しくは書かないが、ラストは若者が選んだ扉の裏には女が待っているのか、それとも虎が待っているのかその判断を読者にゆだねている。
物語を仕掛けた作者が結末を書かずに話を閉じてしまうところに、リドル・ストーリーの妙味がある。
本書のなかでその妙味が最大限に発揮されているのがイタリアが誇る幻想作家ブッツァーティの「なにかが起こった」だ。これを最初に読んだときはその悪夢的な状況に心底震え上がった。異様な雰囲気が充溢する傑作である。この作品の疾走感はただごとではない。なにげない疑問がだんだん真の恐怖に変わっていくところなど本当に夢に出てきそうである。
モフェット「謎のカード」も良かった。こちらもシチュエーションこそ違えど、なにか尋常ならざるものに近づいているのがわかっていながらも、いったいその先に待っているのは何なのか?という異常な状況が描かれており、それが結末のなさと相まってすごい盛り上がりをみせるのである。
最初に本書のコンセプトはリドル・ストーリーだと書いたが、本書の中に一編だけ見事に解決をみる話がおさめられている。ホーソーン「ヒギンボタム氏の災難」がそれだ。
この話に登場する謎はふつう解釈できそうにない謎なのである。まるで迷路に迷ってしまったかのような混迷ぶりだ。しかし、それがラストではあざやかに解明されてしまう。ミステリとしてもかなりおもしろい作品なのである。これがもし解明されないままで結末を迎えていたらと思うと、それもまた一興かな。編者がこの作品を選んだのも、そういう意図だとのことだ。
とりあえず十五年たったいまでも強く印象に残っている作品を紹介したが、本アンソロジーは買いである。解決されていない物語ばかりであるにも関わらず、ミステリ好きに強くオススメしたい。
といっても、いまでは絶版になっているかもしれないが。