読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

太田忠司「レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿」

イメージ 1

 レストアとは修復師のことである。本書の主人公雪永鋼(ゆきなが はがね)はオルゴールの修復師。

 彼のもとには様々な物語を詰め込んだオルゴールが持ち込まれる。彼はオルゴールを修復すると同時にそこに秘められた物語の謎を解き、関わった人たちの心の傷も修復していく。

 太田忠司もいわゆる量産作家だと思い、今まで手にとることはなかった。今回この本を読んだのは、佐野洋が書評で褒めていたからである。

 読んで驚いた。やはり食わず嫌いはダメだなと思った。とりたてて強く印象に残ったり、深い感動を与えてくれるわけではないが、本書の感触は良かった。静かで、やわらかく、繊細な物語だった。

 主人公である鋼自身が心に傷を負っているがゆえに、全体の印象が悲哀に包まれている。五編の短編で構成されているのだが、連作形式で全体を通して一本の筋が通っており、短編集というよりは長編を一冊読んだような印象だったのも良かった。

 ミステリとしてはそれほど感心する部分はなかったが、これはこれでいいのだと思う。なぜならば本書の眼目はその部分ではないからだ。本書で描かれるのは心に傷を負った鋼の再生なのだ。彼はオルゴールの修復という仕事を通じて様々な人と関わりあい、困難に立ち向かうことで自身を律していくのである。そのストイックな姿は、読んでいて気持ちがいいし、なぜか心が温かくなる。本書を読んでると、自然と鋼を見守る気持ちが芽生えてくるのだ。

 派手な殺人が起こるわけでもないし、サスペンスに富んだ展開があるわけでもない。しかし、先へ先へとページを繰る手は止まらない。これを読んでこの著者のファンになるってこともないが、軽く読書がしたいときなんかには最適の本ではないだろうか。