初めて読んだ船戸作品が本書だった。もう15年も前のことである。読む前は苦手な冒険小説だし、けっこう長いし、完走できるのかなと思ったのだが、これが読んでみるとおもしろい。
そりゃあポリサリオ解放前線の実情や、マグレブ地方の内情、頻繁に登場する銃火器に関する描写などのあまり馴染みのない世界は、興味の対象でないことも加わって読書欲をくじけさせるに充分な要素である。しかしこういった不得意な部分でさえ、船戸の手にかかるとスラスラと読めてしまうから不思議だ。それに加えて本書のリーダビリティを高めているのが、物語の骨子のシンプルさである。
言い換えれば、本書のプロットは至極単純なのである。
本書は復讐の物語なのだ。一人の男の壮絶な復讐譚なのだ。
海外進出日本企業のトラブルバスターであり守護神と呼ばれる男、隠岐浩蔵。そして非合法な手段で問題を見事に解決する彼に憧れ、彼のようになりたいと願う青年、香坂正次。ズブの素人だった正次は、浩蔵のメンバーに加えてもらい数々の修羅場をくぐり抜け一人前の男に育っていく。
だが、正次は浩蔵に裏切られるのである。そして彼は復讐の死霊と化す。
この、明確な構図がいい。だから読者は対象を見失うことなく物語に没頭できる。
巨大な敵に立ち向かう主人公というパターンは、古今東西掃いて捨てるほど書かれてきた。だからそこに独創性はない。しかし、そのステロタイプな話が異常な盛り上がりをみせるのである。
これは男の物語だ。全編に漲るパワーは他に類をみないほどで、そこには血と硝煙が渦巻いている。これを船戸作品の傑作と推す人が多いのも頷ける。ぼくは他に「夜のオデッセイア」、「砂のクロニクル」と二冊読んだが、その中では本書が一番おもしろかった。
あとは「山猫の夏」を読まなければいけないなぁ。