読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

鈴木光司「リング」

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これは、作品が一人歩きしてしまって小説本来の価値が薄れたような気がする。メディアにいいように

食い尽くされて、いまではお笑いのタネになってしまっている感がある。

しかし、本書を読んだ方ならわかってもらえると思うが、本書は秀逸なサスペンスホラーなのだ。

このブログにくる方で「リング」を読んでない方などいないと思うが、今回はぼくなりのこの作品への

愛着を語りたいと思う。

「リング」の単行本が刊行されたのは1991年。この頃は、もちろんこの本の存在を知る人は少なか

った。ぼくもそんな一人。でも、その年の暮れに刊行された「このミス92年度版」でこの本のことを

知ったのだ。順位は14位とベストテンには入ってなかったが、あまのじゃくなぼくの目はどうしても

圏外作品に向いてしまう。正直いってこの時のベスト1だった志水辰夫「行きずりの街」はいまだに読

んでない。2位の「毒猿―新宿鮫Ⅱ」にしても前年の1位だった「新宿鮫」を読んで、こりゃあかんと

匙を投げたくらいで、はっきりいってベスト10にランクインした作品にはそれほど執着がないのだ。

因みにこの年のベスト10で読んだ本は「龍は眠る」「水晶のピラミッド」「ぼくのミステリな日常」

ウロボロス偽書」の4冊だった。

それはさておき。そういった経緯で本書の存在を知ったぼくは、市内の大型書店まで行って本書を購入

したわけなのだ。はっきりいって表紙を見た限りでは、この本ってそんなに凄いのかな?と思ってしま

うくらいシンプルだったが、とにかくオビに書かれている『新しいCult Novelが誕生した』

という言葉に鼓舞されて読んだ。そしてブッ飛んだ。

じわじわと盛り上がる恐怖。前にも書いたが何が怖いといって、その原因が解明される件が一番怖いの

だ。創作によるホラーの怖さはそこに集約されるといってもいい。現実世界の恐怖譚では、現象のみで

語られることが多い。『どうしてそうなったか?』の部分がないのだ。実際原因がわからないことのほ

うが多いだろうと思う。何が原因かわからない恐怖が現実世界の恐怖譚なのだ。

だが創作の世界ではその図式をあてはめて作られた作品は成功しないことが多い。小説にしろ映画にし

ろ漫画にしろ現象のみで語られるホラーで秀作といわれるものは、ごく稀にしかお目にかかれない。

だから大抵の場合現象と原因がセットで描かれることになる。

本書ではそれがパーフェクトな形で描かれていた。怖い現象、怖い原因解明、そして怖い原因。それに

加えて一週間というタイムリミットまであるから、読んでる方も心臓が早鐘を打つくらいの切迫にとら

われ怖さも倍増する。巧みに作られているからこその成果である。

ほんとうに本書は怖かった。不気味さも一級品だった。現在にいたるまで数多くのホラー、恐怖譚とめ

ぐりあってきたが、読み終わって後ろを振り向くのが怖かった作品は本書だけである。

その後このシリーズは「らせん」「ループ」と書きつがれていくわけだが、あとのニ作はまったく別物

と考えていいと思う。単体でみればそれぞれおもしろい作品なのだが「リング」との関連で考えると、

どうしても見劣りするし方向性自体がまったく違うものになっているからだ。

というわけで長々と書いてきたが、本書はそれほどぼくの中では印象深い本だったわけである。メディ

アに毒される前に接したから強烈だったのだろう。

願わくば鈴木光司が本書を越えるホラーを書いてくれんことを。でも、それは無理だろうな。

だって彼もメディアに毒されちゃったもの。