ミネット・ウォルターズは、本書しか読んだことがない。なかなか読み応えのあるミステリだった。読んでいてゾクゾクした。母と妹を惨殺し、バラバラにした上またそれを人間の形に並べなおすという凶悪で猟奇的な犯罪を犯した女オリーヴ。しかし、彼女を精神鑑定にかけると正常との鑑定結果が出たのである。しかも簡単に罪を認めて一切の弁護を拒んでもいる。
エージェントにオリーヴのドキュメントを書くように依頼されたロズは、服役中の彼女に会いにいくのだが、次第にオリーヴの人間性に惹かれ、彼女の無実を信じるようになる。いったい彼女は本当に母と妹を惨殺したのか?真相は別にあるのだろうか?
あまりにも猟奇的な犯罪を扱っていながらその猟奇性は控えめに、先の読めない事件の真相を追い求めたところに本書のおもしろさがある。
事件の周辺をあらっていくうちにもちあがる数々の疑問。当時関係者だった人たちも一癖も二癖もあり真実を語っているのかどうかは神のみぞ知るだ。実際オリーヴがやったのか、それとも誰かを庇っているのかという簡単な謎を追い求めて物語は進められていく。
本書のラストに不満をおぼえる人もいるかも知れない。しかし、ぼくはこのラストを支持する。
このいかにも英国的なゾクッとする終幕よ。かつてドーヴァー「切断」やラヴゼイの諸作でもお目にかかったあの不気味さ。この感覚はブランドにも通じる不気味さである。
難くせつけるとすれば、ヒロインであるロズの人物造形があまりにもありきたりなところだろうか。しかし、おもしろかった。楽しめた。
こういうねじれた展開は、いかにも英国という感じでおもしろい。
やはりミステリの王道は英国にあるのだ。ミステリは英国が本場なのだという感を深くした。