読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」

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泡坂妻夫氏の初長編作品である。

初長編だからして、ここには色々な試みがなされてる。しかし、最初に断っておくがそれがパーフェク

な結果として反映されてないのも事実だ。少なくとも、ぼくはそう感じた。

でも、非常にユニークでおもしろいミステリに仕上がっている。

登場するのは11人のアマチュアマジシャン。同好会として日々練習をかさねる彼らが表舞台に立つと

きがきた。20周年を迎えた公民館の記念行事に参加することになったのだ。11人がそれぞれ自分の

得意とするマジックを披露していく。成功するものもあれば、失敗するものもあり一喜一憂するメンバ

ーたち。やがてショーはフィナーレを迎える。しかし、大団円ともいえる大掛かりなマジックの見せ場

で登場するはずの女性が、どこかに消えてしまったのである。唖然とするメンバーたち。いったいどう

いうことなのか?

女性はその時すでに殺されていたのである。彼女はマンションの自室で死体となっていた。団員の一人

である作家の鹿川舜平が書いた短編小説「11枚のとらんぷ」に出てくるマジックの小道具に取り囲ま

れて。

う~ん、非常におもしろい謎ではないか。ゾクゾクしてくる。しかも、短編小説「11枚のとらんぷ」

が作中作として本編に挿入されているという凝りようだ。この短編が、また凄い。いってみれば11の

マジックとそれの種明かしの話なのだが、これがかなり読ませる。そして、言わずもがなだが、この短

編が重要な鍵になっているのだ。

で、最初の話に戻ってくるのだが、本書のトリックはさほどのものではない。誤解を招くかもしれない

が、溜飲が下がるほどのものではないとぼくは感じた。その部分は少々不満だった。

しかし、しかしである。短編「11枚のとらんぷ」のおもしろさも言うにおよばず、本書はやはりとて

も魅力的なのである。まず、なにより全編に漂うユーモアがいい。絶妙だ。何度も笑ってしまった。

そして、それと相反するように描かれる真相の恐ろしさよ。そこだけ切り抜いたように、浮き上がって

くる恐怖だ。冷たい剃刀の刃を感じてしまった。このへんの呼吸はポーターのドーヴァー警部シリーズ

「切断」と似ているかもしれない。

というわけで、あの「亜愛一郎」シリーズでおなじみの三角形の顔をした老婦人も登場する本書は、そ

ういった意味でやはり読んでソンのないミステリだと思うのである。

ちなみに今回紹介した表紙は角川文庫版である。現在は東京創元文庫から刊行されております。