読書の愉楽

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高畑京一郎「タイムリープ(上下) あしたはきのう」

 



 


 確か、これの旧版持ってたと思うんだけど、見つかんないから新装版買っちゃった。で、読んでみたんだけど、これ上下巻に分けちゃだめだよね。一冊にしたら千円までで買えたんじゃないだろうか。こんな薄いのに二巻に分けるって、あざといなー、まったく。

 ま、それはおいといて内容なのだが、これが世評に違わずしっかりした話で、簡単にいえば一人の女子高生が時間を行ったりきたりする話。それも、意識だけが飛んで過去や未来に行くのである。だから、タイムトラベルじゃなくてタイムリープなのだ。意識が飛んで、次に気がついたときに自分が何日何曜日のどの時点にいるのかがわからない。これって怖いことだよね。自分だけが埒外に置かれてしまうし、その違和感を周りの人たちは理解できないのだ。自分も何がどうなっているのかわからないし、周囲からは何言ってんの?という顔をされる。今日は何曜日?くらいの質問だったら、まだ許容範囲だけどね。

 で、主人公の鹿島翔香はその日が月曜だと思っていたら、火曜だったということに気づく。え?確か昨日は日曜だったはず。だから月曜の時間割で用意してきたのにと思って鞄をあらためると、ちゃんと火曜の準備がしてある。え?じゃあ、本当に火曜なんだ!でも、月曜の記憶がまったくない!いったいこれはどういうこと?

 ま、これがとっかかりなのだが、その前にささやかなプロローグがあって翔香は唇にやわらかい感触を覚えて目覚める。目の前にはクラスメイトの男の子の顔。え?キスされた?両肩つかまれてるし、なに?キャー!!!なにすんのよー!!!と、男の子を突き飛ばしてそこを飛びだし、階段から転げ落ちるところで意識を失うのである。

 さてさて、ここからが伏線張まくり(ていうか、もう張られてるんだけど)の展開で、翔香はなんらかの法則にのっとって過去や未来に飛んでいる。で、その順番がバラバラだから、すでに起こったこと、これから起こることがごっちゃになる。そこで登場するのがクールな秀才若松和彦。プロローグで翔香にキスしていた彼が彼女を救う救世主となる。

 この若松がすんばらしい頭の持ち主で、この前代未聞の現象を理路整然と処理するのである。時間移動がどうして起こるのか?過去と未来への意識のジャンプはどう選択されているのか?そもそもこの現象はどうして起こったのか?またこれを食い止めることはできるのか?

 そこでこの話に食い込んでくるのが、改変の概念だ。過去を変えると未来は変わる。だから、過去へ飛んだ時の自分の行動が未来の自分を危機にさらすこともあり得るのだ。これは、怖いよ。結果が分かっている場合、そこへ辿りつけるのかどうかが分からないのだ。ここらへんの描かれ方が秀逸で、彼らがあれこれ考え答えを導き出す過程の整合性がとれているから、物語の完成度が高められている。その時点での立ち位置が正確に反映されていないとおかしいことになるし、また正確に反映されることによって、驚きや発見が強調されるから、見事な伏線回収も相まって、抜群の威力を発揮しているのだ。

 ま、とにかく未読の方は読んでみて。短い上に読みやすいからすぐ読めるんだけど満足感は保証いたします。