読書の愉楽

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月村了衛「機龍警察 自爆条項」

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 本書は機甲兵装というパワード・スーツ(二足歩行型有人兵器)を導入した警察の活躍を描くシリーズの第二弾である。まあいってみればちょっと小さめのロボットがでてくるわけだ。だから本書にはじめて接する人はおそらく半分SF寄りの近未来サスペンスみたいなものを想像して読み始めるのかもしれない。だってタイトルからして「機龍警察」だもんね。なんかエキゾチックな世界が舞台の映画版「ブレードランナー」みたいな印象があるしね。だがしかし、その予想は快く裏切られることになる。一応導入部
は緊迫したある事件を描いていて不穏な空気がぷんぷん匂ってくるのだが、そこからはかなり骨太の警察小説として機能するのだ。

 

 警察が扱う機甲兵装は龍機兵(ドラグーン)という最新型なのだが、それを所有しているのは警視庁特捜部であり、その搭乗者として三人の傭兵や元テロリストが雇われている。この事実が警察内部に軋轢をもたらす。まわりから異端児扱いされる特捜部の面々。そういった内部の力関係が綿密に描きこまれて展開してゆく。かといって機甲兵装の扱いがおろそかになることもなく、こちらはこちらであたかも実在しているかのようなリアルな描写と質感で読む者を圧倒する。

 

 そして今回スポットを当てられるのがドラグーン搭乗者の一人、元アイルランドテロ組織の殺し屋ライザ・ラードナー。彼女はかつて《死神》として恐れられていたのだが、その彼女がどうやってテロ組織に加担し、どうやってそこを後にしてきたのかが描かれる。現在の事件を追うパートとライザの過去が描かれるパートが交互に配され、事件の全貌が次第にあきらかになってゆく。前回に決着を見なかった〈敵〉の暗躍と、北アイルランドテロリストによる大規模テロ。いったい彼らの目的は何なのか?それすら不鮮明で、その謎は終盤まで明かされない。もはやこのシリーズを読む者にとって馴染みとなった特捜部の面々の一喜一憂が、局面の移り変わりが、人間関係の複雑さがこれでもかと描かれてゆく。

 

 今回はかなり読み応えがあった。またタイトルにある自爆条項の意味も鮮烈な印象を与えてくれた。前回も書いたが、このシリーズ以後の続編でどんどん化けてゆくのではないかといまからワクワクしている。