読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

谷甲州「星を創る者たち」

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 宇宙に進出した人類は、各惑星でプロジェクトを敢行するにいたる。およそ土木工事というものは、計画通りにすんなりいくことは皆無であり、そこには大なり小なりなんらかの障害が存在する。障害を克服するにあたっては、経験や経済的損失や各人の思惑などを総合的に結集しなければいけない。だから、それは直線的に進むものではなく、より糸が合わさるようにさまざまな要素が一点に集約されるように解決されてゆく。

 さて、そんな一筋縄でいかない事業を、あーた、宇宙空間でやっちゃうって言うんだから驚くよね。本書には7編の短編が収録されていて連作となっている。タイトルは以下のとおり。


 「コペルニクス隧道」

 「極冠コンビナート」

 「熱極基準点」

 「メデューサ複合体(コンプレックス)」

 「灼熱のヴィーナス」

 「ダマスカス第三工区」

 「星を創る者たち」

 もう、人類は普通に宇宙空間へと進出しております。月にはじまり、火星、水星、木星、金星、土星と太陽系の端のほうまで開発をすすめております。で、その場所で不足の事態が発生するのだが、これが最初期待してたほどの盛り上がりをみせなかった。もっと、プロジェクトX的なおもしろさが強調された話かと思っていたので、肩透かしだった。

 惑星が変われば条件も変わるわけで、苛酷さに変わりはないが地球上では考えられない事故が起こる。事故が起これば、最悪の事態を回避すべくプロジェクトに携わる人たちは総力を結集する。本書の読みどころだね。でもその困難と克服のバランスが悪いというか、問題点そのものが消化不良というか、それぞれの短編において明確なカタルシスが味わえなかったのだ。ラストの表題作にいたっても、驚愕のラストなんていわれていたが予想の範囲内だったし、ぼくが読んだかぎりでは、オビや解説で書かれている『誰が読んでも面白い第一級のエンターテイメント』という言葉は、当てはまらないと感じたわけなのだ。

 しかし、SF作品としてのおもしろさはまた別で各惑星の迫真の描写しかり、理論に基づくリアルな現象の解釈、壮大な宇宙での大胆な仮説の数々等、読みどころは多い。ていうか、宇宙のあれこれに対してかなり勉強になった。だからぼくとしては、もうちょっとカタルシスが味わえたらなあと思ってしまうのである。