いまになって式貴士の新刊が読めるとは思わなかった。本書は五所光太郎氏が式貴士生誕80年を記念して、雑誌に掲載されたまま本には収録されていなかった短編や、エッセイ、評論そして表題作の「死人妻」の自筆原稿をまとめて私家版で未収録作品集として刊行されたものなのだ。
だから本書は本屋では買えなくて、↓で直接注文すれば買えるってわけ。
式貴士といえば、学生時代に筒井康隆にハマった直後にたまたま本屋で見かけた「吸魂鬼」を手にとってパラパラ見た途端、まるで天啓を受けたかのようなエロ光線の電撃をくらって即買いし、その男の妄想を無制限に表現した短編作品に鼻血を止めるのも忘れてむさぼるように読んだものだった。だが、よくよく読んでいくとエロい作品ばかりでなく、叙情性豊かでセンチメンタルな短編もあり、かと思えば興味深い多岐にわたる情報が横溢したペダンティックな作品もあって、たちまちその作品世界に引きこまれ、当時角川文庫から出ていた短編集をたちまち読み尽くしてしまったのだった。
そんな式貴士の未収録作品ばかり集められた本書はファンにとってはまたとないプレゼントとなったわけなのだが、いままで小説作品しか読んでなかった(あの有名な長いあとがきは別にしてね)身としてはエッセイ作品の中で語られる氏の世界観やポジショニングがわかっておもしろかった。
また小説作品では収録されている中でいちばん長い「リモコン・レディ」があの懐かしい男の妄想爆発の作品で、少し叙情の香りもあり式作品にハマっていた当時のことを思い出してしまった。
絶筆となった表題作の自筆原稿は、これまたライブ感あふれるもので、原稿用紙10枚ほどのものなのだが、なかなかの悪筆で読み通すにはかなりの忍耐を強いられる。それもまたいいんだけどね。
というわけで久しぶりの式作品充分堪能いたしました。でもまだ「鉄輪の舞」と「なんでもあり」を積んだままなんだよね。