ほんとに久しぶりにシーナSFを読んだのだが、これが相変わらずの世界観でうれしくなってしまった。
シーナSFの特徴は、見事なまでに完成されたキワドイ漢字の造語に溢れているところで「呵々兎(かかうさぎ)」「胴樽蜥蜴(どうたるとかげ)」「腐爛柘榴」「念珠葛」「村田肺魚」なんてのが、それこそ所狭しと登場するさまは圧巻なのである。この造語の持つ独特のイメージのみで彼のSFは八割方成り立っているといっても過言ではない。だって「ヨハンソン紅大烏賊」や「火口高足蟹(ほぐちたかあしがに)」や「頬刺海豚(ほほざしいるか)」なんてグッドネーミングが乱発されるのである。こちらのテンションも上がろうってものだ。
そうして展開される物語はSFの持つ硬質で先鋭的なイメージとはかけ離れていて、どこまでも庶民的で泥臭く、尚且つ生々しくて少しグロテスクなのである。本書に収録されているのは以下の7編。
「滑騙の夜」
「銀天公社の偽月」
「爪と咆哮」
「ウポの武器店」
「塔のある島」
「水上歩行機」
「高い木の男」
それぞれの物語がすべて同じ世界を舞台にしているかというとそうでもないようなのだが、おおむねリンクしていて同じキーワードが登場したりする。総じて感じるのは、シーナSFの描く未来はなんとも生きにくい世界だなということ。べとつく脂雨が降りそぼり、知り玉に監視され、古式怪獣滑騙がやってきたりする。生化学戦争でPCC棘胞ガスに冒された傷痍軍人の通称「つがね」なんてのが木の上に住んでいて、骨だらけの村田肺魚の頭をかじってたりする。う~ん、なんともシュールで生々しい世界だ。そこから紡がれる世界は、いってみたらもうなんでもありの世界で、短編にできそうなエピソードなど無限に出てきそうな豊穣なイメージではちきれそうだ。おそらくこれからもどんどん描かれていくのだろう。およそスタイリッシュとはかけ離れたSF世界だが、これはこれで素晴らしい。気色悪い生き物がうようよしている生々しい世界にレジスタンスの風を吹かせるシーナSFの魅力が満載されている本書は彼のSF世界の入門書としても最適なのではないかと思われる。興味をもたれた方は手にとって1ページ目をなんとなく読んでみて欲しい。もう、その1ページ目からシーナSFワールドが全開のフルスロットルで展開されているから、ここで受け付けなかった人はダメ。これがおもしろそうだなと感じた人はどうぞそのままこの独特の世界を堪能していただきたい。これはそういう話なのである。