本書も角川書店の読者モニターで当選して読んだ本である。これで角川のモニターをするのは三度目だ。
本書は、長大で尚且つ一言で説明できない複雑な展開を見せる本なのだが、それをぼくなりに一応説明しようと思う。だが、リーダビリティは素晴らしいので、臆せず手にとって頂きたい。
最初は二つの物語が交互に語られてゆく。まず一つはアメリカ人傭兵ジョナサン・イエーガーの物語。彼の息子は肺胞上皮細胞硬化症という不治の病を抱え、死に瀕している。そんな息子の命を繋ぐ治療費を稼ぐために彼は傭兵として戦場を渡り歩いている。
もう一つは創薬化学を専攻する大学院生 古賀研人の物語。彼の父 誠治がある日急死してしまう。葬儀を終えた研人に亡くなったはずの父からメールが届く。そこには「アイスキャンデーで汚した本を開け」というメッセージが残されていた。これは研人と誠治の間でだけ通用する符号だった。そこから研人は非現実的な命の危険に晒される逃亡の日々を送ることになる。
この二つの物語がやがて交錯する。イエーガーはコンゴの奥地にいる新種のウィルスに感染したピグミーの一族と、それを調査している人類学者ナイジェル・ピアースの殺害を依頼され、寄せ集めのチームを組む。研人は、死んだ父からのメッセージに導かれて、身を隠しながら肺胞上皮細胞硬化症の新薬の開発に着手することになる。
二つの物語を結びつけるのはこの世のものではない存在『ヌース』だ。すべての事柄がヌースに集約され感動的なラストへと辿りつく。
この長い長い物語の中には、あまりにも無惨で悲惨な現実が描かれる。それは主にイエーガーが直面するアフリカでの出来事だ。この地で起こっている過酷な内戦。そこで目にするこの世の地獄。その酷さにぼくは本を閉じかけた。人が人に対してどれだけ残酷なことをするのかという最悪の見本がここにある。まったく信じられないおもいだった。
正直に告白すると、本書で描かれる事柄は多岐にわたって拡散気味であり、それぞれのパートではかなり熱く物語が沸騰するのだが、結局何が描きたかったのかよくわからないのだ。言い方を変えれば、頭から尻尾までの太い一本道が枝分かれしすぎて、よく見分けられないような気がするのである。
だが、本来なら致命的な瑕疵となるその要素が、読後あまり気にならない。そのこと以上に気持ちのいいラストが待っているから、あらためて冷静に判断しないと、それは気にならないのだ。本書には大きなSFという枠組みの中に軍事サスペンス、メディカル・スリラーなどのジャンルが混在した面白さがある。
いったいどこへ連れて行かれるのか?という大きな命題にのせて、いままで読んだことのないような物語が紡がれてゆく。気の利いた小技や大どんでん返しのような大技もないが、いま書きたいことを全部ぶちこんじゃいましたっていうようなダイナミックさが感じられて、清々しい。まさしく力技の一本なのだ。
高野氏の本は初めて読む。つい先日「列外の奇才 山田風太郎」に収録されていた氏の手になる「幻燈辻馬車」の映画脚本を読んだことがあるが、本としては本書が最初だ。最初に読む本として本書がふさわしいのかどうかは、よくわからないが、とにかくこの人の他の本も読みたくなったのは事実である。
とりあえず、次はまずデビュー作の「13階段」を読んでみようかと思っている。