「べンハムの独楽」と同じく本書も連作短編形式で話が進められてゆく。
「ジューン・プライド」
「ミルク・ロード」
「スペース・トラブル」
「プレジャー・ハンター」
「ウィッシュ・ストーリー」
以上五編の短編が収録されていて、またまた奇想に満ちた展開をみせてくれる。なんせのっけから逆閏年なんてものが出てきて六月がなくなってしまうのだ。は?なんのことかわかんないでしょ。とにかく六月がなくなってある日突然言葉が理解できなくなる病気に罹ったりして、でも動物の言葉は理解できたりして、そうかとおもえば猫は寝る寸前に見たものに影響されてそれを夢で見たとたんにそこへテレポートしてしまうし、そうこうしているうちに、あれ?これってパラレル・ワールドの話?え?もしかして時間も遡ってたりする?というふうに、あれよあれよとすべてが繋がるラストへと集約されてゆく。
まだまだ荒削りな印象は残るのだが、やはりおもしろい。まったく予想できない話の展開に楽しく翻弄されてしまう。それにラストでは意外と温かい気持ちで本を閉じることができるのもいい。描かれているのは小さな世界の出来事なのだが、それが拡散しながらそれぞれの短編で独自の展開をみせる。語り手が変わり、さっきまでの主人公が脇役になり、あろうことか猫までもが主人公になったりする。一方向からしか見えていなかった道筋が別の角度から見えるようになり、少しづつ世界が一つにまとまってゆく。しかし、最後の最後まですべてが明らかになることはない。
ほんと、完全無欠に終息はしていないのだ。だからまだまだ荒削りだなと感じてしまう。でも、これだけ奇想を散りばめて、それぞれを拡散、集約させる力量はたいしたものだと思う。次はどんな話なのかという興味だけでも、どんどんページを繰ってしまう。
今後、作者がどういう本を書いていくのかとても楽しみだ。もっともっと変わった奇想天外な話を書いていってほしいと思う。