読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内SF

上田早夕里「魚舟・獣舟」

この人は2003年に「火星のダーク・バラード」で第4回小松左京賞を受賞してデビューした人なのだが、この賞の受賞作はいままで一冊も読んだことがなく、いったいどれほどのレベルの作品が集まっているのかわからなかった。だが本書を読んで俄然興味がわ…

伊藤計劃「ハーモニー」

しら菊さんから聞いて初めて知ったのだが伊藤さん3月20日に逝去されていたのである。享年34歳ということで、死ぬのに歳なんて関係ないのだが、ぼくより若いこんなに才能豊かな人がこの世を去ってしまうなんてちょっとショックだった。「虐殺器官」と本…

伊藤計劃「虐殺器官」

無残に横たわる無数の死体が描かれた表紙と、タイトルの不穏な響きで本書で描かれる世界がとても不気味で惨たらしいものだと思ってしまうが、決してそんなことはない。 本書で描かれるのはスタイリッシュでクールなプロフェッショナルの世界。堅牢に構築され…

鈴木光司「エッジ(上下)」

鈴木光司は「リング」のシリーズで燃え尽きたと思っていたので、「バースデイ」以降はまったく読んでなかったのだが、今回この「エッジ」はなんとなく気になって久方ぶりに読んでみようかと思った。 読んでみればわかるが、本書はホラーではない。仕組みが理…

佐藤亜紀「天使」

一読して、ひれ伏した。こういう書き方もあるんだと素直に感心した。馬鹿の一つ覚えのように連呼してしまうが、恥を承知でまた皆川博子の名を出そう。ぼくが思うに、この佐藤亜紀こそ皆川博子の最右翼の後継者なのではないだろうか。 本書は、第一次大戦を挟…

筒井広志「オレの愛するアタシ」

これ、もう絶版なんだろうな。ぼくが読んだのも、もう二十年以上前だもんな。しかし、そんな昔に読んだ本がけっこう鮮烈に記憶に残ってたりするのである。本書のことを知らない方でも、勘のいい人ならタイトルを見ただけでピンとくるだろうが、本書で描かれ…

戸川昌子「透明女」

戸川昌子といえば、まがりなりにも「大いなる幻影」で江戸川乱歩賞を受賞した才人である。といってもぼくはいまだに「大いなる幻影」も「猟人日記」も「火の接吻」も読んだことがないのだが、もしかしてこれは読む順番を間違えたかな?ね、そうでしょ、もね…

荒巻義雄「神聖代」

これはなんとも形容しがたい物語だ。いってみれば、大いなる空想のもと自由闊達に描かれたお遍路の話とでもいおうか。解説では筒井康隆が『巡礼』と形容しているが、まさにそのとおり。でも、ぼく的には西国八十八箇所巡りしているお遍路さんの姿が妙にだぶ…

鏡明「不確定世界の探偵物語」

たった一台のタイムマシンによって改変されていく世界。過去に干渉することによって、いきなり目の前の人が別人になったり、風景が変わってしまったりする驚異の世界。ワンダーマシンとよばれるその装置を所有し、世界を掌中にする男の名はエドワード・ブラ…

山本弘「闇が落ちる前に、もう一度」

「神は沈黙せず」は、ほんと久方ぶりに熱狂した小説だった。まずその情報量の多さに圧倒され、尚且つそれを物語の渦中に巧みにとけこませ、人類最大の謎ともいえる神の存在に肉薄する周到な構成は、他の追随をゆるさない確かな技量を見せつけて秀逸だった。…

酒見賢一「ピュタゴラスの旅」

「後宮小説」以来である。あの小説であれだけ感銘を受けたのに、なぜか疎遠になってしまった。そういうこともあるのである。本書は彼の第二作目であり、初の短編集である。収録作は以下のとおり。◆ 「そしてすべて目に見えないもの」◆ 「ピュタゴラスの旅」◆…

森奈津子「西城秀樹のおかげです」

バイセクシャルだとカミングアウトしてる上に西澤保彦作品で主役をはってるというこの女性の作品を一度読んでみたいと思っていた。たんなる興味本位である。そこで本書に白羽の矢をたててみた。 なんとも人をくったタイトルではないか、いったいどんな話なん…

浅暮三文「実験小説 ぬ」

とりあえずアイディアの豊富さには敬意を表したいと思う。本書の構成は二つに分かれている。 第一章が実験短編集。ここには10の短編。第二章が異色掌編集。こちらには17の掌編がおさめられている。なかなか盛り沢山だ。 注目したいのは第一章である。ぼ…

筒井康隆「わが良き狼」

筒井康隆の短編集といえば、本書なんかより「毟り合い」「走る取的」「五郎八航空」などの傑作目白押しの「メタモルフォセス群島」や、これまたストレートなSF舞台で繰りひろげられるグロでエキサイティングな話ばかりの「宇宙衛生博覧会」や筒井短編の最…

田中哲弥「やみなべの陰謀」

ビミョーだ。すごくビミョーな感じだ。 千両箱と一人の男によって5つの話が結ばれる。タイムトラベル物なのだが、いかんせん収拾が甘い。それぞれの話は、そこそこおもしろい。 第一話は『ある日突然~』というSFには定番のサプライズで物語がはじまる。…

北野勇作「どーなつ」

短編が連作形式で十編おさめられている。 それぞれ共通した世界観の中でさまざまな物語が語られるのだが、これが各話リンクしてるようでいて微妙にズレている。かといってパラレルな話でもない。ここで語られる世界では戦争が起こっている。 しかし誰もその…

沼 正三 「家畜人ヤプー」

戦後最大の奇書といわれる本書は、いま読めば至極まともな話に感じられるかもしれません。本書は基本SFです。 物語の冒頭は、こんな感じ。 ドイツに留学中の瀬部麟一郎と恋人クララの前に突如、奇妙な円盤艇が現れます。中から現れたのはポーリーンと名乗…

式貴志のSF短編。

間羊太郎の「ミステリ百科事典」が復刊されましたね。巻頭に、北村薫氏と宮部みゆきさんの対談がついてる豪華版です。 この間羊太郎氏、もうお亡くなりになっているんですが、この人は器用貧乏みたいなところがありまして、色々ペンネームを使い分けて各ジャ…

広瀬 正「マイナス・ゼロ」

日本SF長編の金字塔であり、SF黎明期に登場し後の作家たちに多大な影響をあたえた大傑作SFが本書「マイナス・ゼロ」です。 著者の広瀬 正は、不幸な作家でした。長い不遇の時代を経て、ようやく世間に認められた矢先、取材先で心臓発作を起こして亡く…

筒井康隆「家族八景」

最初に断っておきますが、本書は筒井康隆の最高傑作だとぼくは勝手に思っています。本書の主人公、火田七瀬はテレパスであります。人の感情あるいは心の声を読み取ることができる超能力を備えている。 そんな彼女が、お手伝いとして訪れる八つの家庭が独立し…