この歳になって、ドラえもんにまた相対することになるとは思いもしなかったが、とうとうこれを読んでしまった。こうみえても、小学生の頃はドラえもんの虜になっていたこともあって、コロコロコミックは毎号欠かさず購読していたし、漫画の単行本はすべて読んでいた。ドラえもんによって『大陸棚』のことも知ったし、人体を構成する成分のことも知った。大げさかも知れないが、ほとんどの科学の知識は『ドラえもん』によって得たといっても過言ではない気がするのである。
本書の著者である瀬名秀明氏はぼくとおない歳である。だから、ドラえもんとの接し方はほとんどリンクしてると思う。そんな瀬名氏が今回の映画化作品の小説版を書いたというので、読んでみようかという気になったというわけ。正直、瀬名氏の本はあまり読んでない。というか、デビュー作の「パラサイト・イヴ」を読んで、なんでこんなカスみたいな本がホラー小説大賞とったんだろう?と首を傾げて以来まったく読んでないのだ。
だから、瀬名本としては本書が二冊目なのだが、これがとても良かった。もちろん、映画の小説版なので、ストーリー自体はほとんど映画の筋と変わりないのだが、そこには「ドラえもん」を心から愛する著者の真摯なまなざしが終始注がれていて、映画の底辺に流れているヒューマンなテーマがしっかりと描かれているのである。
ぼくが本書を読んで一番感心したのは、鉄人兵団との戦争という命に関わる一大事に遭遇して、心底から怯えて死の恐怖と葛藤するのび太たちの心情が痛いくらい伝わってくるところだ。明日は決戦という前夜の彼らの言動を描く場面では、思わず涙を堪えたくらいである。スネ夫やジャイアンが心の底から叫ぶ言葉にはほんとうに胸を打たれた。特に本書のスネ夫の活躍は、好感度アップに大いに貢献しているといえるだろう。いつも通りのあの狡賢いスネ夫が少し大きく見えたのは事実だ。自分たちが直面している状況を冷静に分析し、結果を得るために感情に左右されない思考を貫く姿勢は素晴らしい。
また、瀬名氏の得意分野でもあるロボットに関する詳細もいろいろ盛り込んであり、メカニズムから心の問題まで幅広く描いているところも好感がもてる。
本編には関係ない、おまけのゲストが登場するところなどもファンにとってはうれしい驚きだろう。他にもドラえもんマニアの著者らしい、くすぐり所が随所にあっておもわずニヤリとしてしまう。
というわけで、本書は小学生から大人まで幅広く楽しめる仕上がりになっている。
さすがだ。こんな本を書いてしまう瀬名氏をぼくはいままで放置してきてしまった。これからはもう少し彼の本を読むことにしよう。