読書の愉楽

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月村了衛「機龍警察」

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 パワード・スーツを着た警察のお話。しかし、本書はそれだけを売り物にした単なるロボット戦闘物の凡百作品とはまったく違った読後感をもたらす。

 近接戦闘兵器体系・機甲兵装。通称キモノと呼ばれるその兵器は、身の丈3.5メートルあまりの二足歩行型軍用有人兵器だ。凶悪化する犯罪を抑止するために新型の機甲兵装『龍機兵(ドラグーン)』三体を保持する警察の特別機関警視庁特捜部はその操縦者として傭兵や元テロリストなどのその道のスペシャリストを雇い入れる。『龍機兵』は門外不出の極秘プロジェクトであり、その全容はごく一部のものしか知らない。

 物語は一本の電話で始まる。通報により巡邏中のパトカーが急行した廃鉄工場には、密造機甲兵装三体がおり、またたく間にパトカーを踏み潰し逃走。巡査部長は圧死、巡査は大腿部を切断される。逃走する機甲兵装は次々と一般人の死傷者を増やしながら建設中の地下鉄駅に立て篭もる。外国人と思われる彼らの目的は何なのか?

 おもしろいのは、本書で扱われるこの事件が解決されないところ。そう、物語は大きく動き出したばかりなのだ。では本書で何が描かれているのかというと、警察小説としての読みどころが満載されているのである。捜査の本分と警察機構内での数々の軋轢。それがハイテク軍事アクションと合わさって、なかなか読み応えのある物語になっているのだ。

 登場人物たちも、サブストーリーが充実していそうな一癖も二癖もある奴らばかり。百戦練磨のフリーランス傭兵の姿俊之、モスクワ警察の精鋭だったユーリ・オズノフ、殺しのプロフェッショナルとして描かれる元テロリストのライザ・ラードナー、そしてこの三人を束ねる外務省出身の変り種沖津特捜部長。

 先ほども書いたとおり、本書は大きな物語の序章である。ぼくの感触ではこのシリーズはなかなかの読み物になりそうな予感がする。緻密な設定と堅牢な世界。そこに描かれる詳細な警察ストーリー。本書が凡百のロボット戦闘物とは一線を画すものだと最初に書いた理由が以上のとおりなのである。

 どうだろう?本書を読んだ限りでは、続編への期待が大いに高まるのだが、これはぼくだけの感覚なのかなぁ?