読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

佐藤究「Ank : a mirroring ape」

 

Ank : a mirroring ape (講談社文庫)

 おかげさまで、読了しました。かなり話題になった本だったので、かなりおもしろいんだろうと思っていたら、これがまったく気に入らなかった。地元の京都が舞台ということで「黒い家」を読んだ時と同じくらいテンション上がってたんだけど、これがダメだった。

 京都で暴動が起きる。日本人、外国人あわせて三万人以上の死者が出る。大惨事だ。しかも、この暴動に関わった人々はみなリミッターの外れた機械のように自身が負う負傷や痛みをまったく無視した暴走をみせ、お互い殺し合うのである。そのさまは、まるで原始の猛獣のよう。さらに驚くことに、この暴動は時間の経過とともに様々な場所で突発的に起こるのだが、それぞれの暴動はおよそ八分少しでスイッチが切れたようにおさまるのである。

 問題は、これの原因が何なのか?ということ。どういう原理で起こるのか?それと並行して描かれるのが、この暴動以前の出来事。AI業界で突出した成果を出し巨万の富を得たダニエル・キュイ。しかし、彼はあっさりと引退し霊長類の研究施設を京都に創設する。そのKMWP(京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト)という施設の所長に抜擢された鈴木望を主人公に物語は描かれる。

 さて、ここまでがバラしてもいい範囲でのバックグラウンド。で、いったい何が起こったのか?という大きな謎の解明がはじまるわけなのだが、これは、進化の歴史に大きく関わってくる問題となる。類人猿と人間を隔てたものとは?現在のこのような結果を招いた要因とは何なのか?そのヒントは、タイトルにもあるのだが、正直この部分は、あまりパッとしなかった。大いに納得できるし、説得力バツグンなんだけど、揺さぶられる感動がなかった。そこで、評価がグンと下がった。でも、最新作の「テスカトリポカ」は、読もうと思っております。