読書の愉楽

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法条遥「リライト」

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 大地が揺らぐような、世界が崩壊するような大きな瓦解的変化に足元をすくわれる。ミニマムからマキシマムへ、個々人の特定された世界からいきなりの異次元へ。本書はそんな陥穽につき落とされるような衝撃によって幕を閉じる。

 

 一九九二年七月一日に転校生としてN中学にやってきた園田保彦。彼は一冊の本をもとめて未来からタイムリープしてきた未来人だった。石田美幸は、偶然その秘密を知ることになる。そしてたまたま居合わせた旧校舎の崩壊事故から彼を救うため10年後の未来へ跳ぶ。美幸の機転で保彦は崩れた瓦礫の中から助け出される。以上が一九九二年に起こった最重要事項。

 

 しかし十年後の二○○二年、過去からくるはずの自分はいつまでたっても現れなかった。自分が現れないということは、保彦は助からないということではないか。ありえない。いったいどうして過去が変わっているのか・・・・・。

 

 これが本書の物語の骨子。物語は二○○二年のパートと一九九二年のパートが交互に配される形で進められてゆく。そして、本書を読み進めていくうちに読者は数々の相違を知ることになる。え?この場面はあの人が。あれ?この章はこの人の視点なの?あ!また変わった。ここはこの人?は?殺人まで起こっちゃうの?てな具合である。頭の中は、はてなマークでいっぱいだ。ともすると何度も前のページに戻って確認作業をしそうになる。ぼくはこの物語についていけてるのか、なんて心配までしてしまう。だが、もちろんそれは全部伏線だ。ラストですべてが氷解する。いや崩壊するといっていいかな?

 

 未来からやってきた素敵な男子。タイムリープを可能にするラベンダーの香りのする錠剤。探している小説のタイトルは「時を翔る少女」。とくれば本書があの筒井康隆の名作「時をかける少女」を意識していることは十分わかる。しかし本書はあの大甘のせつないジュブナイルSFとは正反対の展開をみせる。

 

 『SF史上最悪のパラドックス』という謳い文句は煽りすぎではない。最初に書いたように、この読後感はかなりの衝撃をもたらす。まさかこんなことになっているなんてね。