本書にはゲームを主題に据えた短編が六編収録されている。収録作は以下のとおり。
1 「盤上の夜」
2 「人間の王」
3 「清められた卓」
4 「象を飛ばした王子」
5 「千年の虚空」
6 「原爆の局」
それぞれ扱われているゲームは以下のとおり。
1 囲碁
2 チェッカー
3 麻雀
4 チャトランガ
5 将棋
6 囲碁
これらのゲームの中で、ぼくがルールを知っているのは将棋だけ。しかし、そんなアウェイな状況にも関わらずぼくは結構これらの作品を楽しんだ。確かにそれぞれのゲームに関する専門用語が頻出する場面もあり、特に麻雀や囲碁などはそういう箇所が多かった。はっきりいってチンプンカンプンだ。なのに飽きることなく読めてしまったのである。
なぜか?それを説明して本書の感想に変えようと思う。
ここで描かれるのはゲームの世界に生きる真剣師の物語なのだ。真剣ゆえにそこでは命が磨り減らされてゆく。力と力が拮抗し、そこに張りつめた緊張がうまれる。それはまさに息詰まる瞬間であり、現世から隔絶された亜空間なのだ。まして、語られる話は、四肢を失った天才女流棋士や、チェスの原型であるチャトランガという遊戯を考案した仏陀の息子や、原爆が落ちた日に広島で打たれた碁についての話なのである。いささか観念寄りの傾向があり、SFというカテゴリーよりも幻想小説に近いような雰囲気をまとってはいるが、これが面白くないわけがない。そりゃあそれぞれのゲーム自体を熟知しているほうがより迫真性が強調され、物語の強弱を十二分に味わえるのは間違いない。しかし、それがわかっていなかったとしても本書は十分鑑賞に耐える短編集なのである。なぜならそれぞれのゲームやテーマが変わったとしても、作者は常に一本の太い芯を据えていて、それは本質を見極めるということに直結しているのだ。
時にそれはゲームの方向性でもあり、人の生き方でもあり、物事の考え方であったりもする。すべてにおいて真剣に取り組みそこに存在する唯一無二の本質を掴みだす。その過程がまさにスリリングな醍醐味となっているのだ。
とまあ、こんなことをガツンガツンと叩き込まれながら本書を読んでいた。それほどに刺激的な一冊なのだ、本書は。