読書の愉楽

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月村了衛「機龍警察 暗黒市場」

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 このシリーズも本書で三冊目。前回は三人いる龍機兵搭乗員のうちアイルランド出身の元テロリスト、ライザ・ラードナーの過去が語られていたが、本作はロシア出身のユーリ・オズノフの過去が語られる。構成的には前回も今回もまったく同じだから目新しさはないのだが、どうしてどうしてこれが読み始めるとやはり面白い。

 

 このシリーズの特色は前二回の感想で詳細に語っているのでここではくり返さないが、回を追うごとに物語世界が広がりをみせ、世界観が堅牢になってゆくのに快感をおぼえる。あの文庫本でまったく未知数のまま始まった物語が、どんどん大きく育ってゆくだろうという予感はあったにしても、これほどの成長を遂げるとは思ってもみなかった。

 

 あまりにも緊密で隙のない世界観と、機甲兵装のリアルな描写にこれがSFだとわかっていても、通常の警察小説を読んでいるかのような臨場感を感じさせるところが素晴らしい。まるで絵空事の世界なのにそこには現実以上のディティールが書きこまれ息づいているのだ。

 

 そうそう本書の内容にも少し触れておこうか。先にも書いたとおり本書の主人公はユーリ・オズノフだ。この無骨で無口でまるで人間味のないロシア人が噂通りの刑事殺しで手配されている元モスクワ民警の捜査員なのかという当初からの謎がここで解明される。彼の生い立ちから現在にいたるまでの道程は、まさに地獄巡りであって、これだけの経験をすればそりゃ無口で無骨にもなるだろうと納得してしまう。

 

 そんな彼の過去と現在進行中の事件の顛末が語られ、それがラストで周到に絡まってゆく。

 

 正直いって、後半の様々な場面をカットバックで描くところはさほど盛り上がらなかったように思う。場面の切りとり方が細かすぎて、少し助長に感じたのだ。

 

 その他は相変わらず素晴らしい出来栄えで、安心して読めた。ほんと本書読んでると機甲兵装ってのが実在してるような錯覚に陥ってしまう。それほどにディティールの描写がリアルで臨場感にあふれているのだ。

 

 こうして三人のうち二人のバックグラウンドが語られたということは次は残る一人の傭兵だった姿俊之の過去が語られるのかな?大いに楽しみにしていよう。