読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内ミステリ

舞城王太郎「獣の樹」

またまた獅見朋成雄の世界なのである。だが、いつものごとくいままでの獅見朋成雄世界とのストーリー 的なリンクはない。いくつかのキーワードが合致するのみなのである。「SPEEDBOY!」 で描か れた音速を超える俊足が本書でも縦横無尽に駆けめぐり…

島田雅彦「悪貨」

島田雅彦の本を読むのは初めてである。「彼岸先生」とか「退廃姉妹」などは少し興味を惹かれもしたが なんとなく読まずにきた。本書はそんな彼が書いたクライム・ノヴェル。通貨偽造事件を扱っているのだ が、これがなんともお粗末な出来だった。 この人って…

梓崎優「叫びと祈り」

新人さんの連作ミステリということで、五編収録されているのだが最後の一編を除いて、すべて海外が舞台になっているというなかなかの意欲作だ。描かれる国のほとんどが、いってみれば一般の旅行者からみればマイノリティに属する辺境の地で、サハラ砂漠であ…

真梨幸子「孤虫症」

まあ、なんとも変わった話だった。これほど展開が読めない本もめずらしい。しかし本書はちょっとでも筋を話してしまったらおもしろさが半減すると思われるので、未読の方がおられた場合を想定してあえてストーリーの紹介はせずに本書の感想のみで書いてみた…

門前典之「屍の命題  シノメイダイ」

これね、なかなかの傑作だとおもうのだが、どうなんだろ?久々に読んだ本格物で少し興奮しちゃったのかな?ぼくはとても楽しく読了できた。本書を読んだ誰もが感じることだろうが、ここで扱われるトリックはまったくもってバカミス街道まっしぐらで、もっと…

図子慧「ラザロ・ラザロ」

とにかく、この人が気になって仕方なかったのだ。特にこの「ラザロ・ラザロ」はタイトルといい、丁度よさげな本の分厚さといい、ぼくの好奇心を最大限にくすぐってくれたのだ。 ラザロとは、みなさんもご存知のとおりヨハネの福音書で描かれる死から蘇った男…

小島達矢「ベンハムの独楽」

まずね、このタイトルが秀逸なのね。ベンハムの独楽って、いったいどゆこと?と思ってしまうのだ。この名前は知らなくても、この独楽のことは知ってる人は多いんじゃないかな?白と黒しか使っていない模様を描いた独楽を回すと、そこに色が見えるというのだ…

竹本健治「ウロボロスの偽書」

これは読んでブッ飛んだ。なんなんじゃ、これは!ってな感じである。基本的に本書は三つのパートに分かれている。ひとつはあまりにも残虐な犯行を重ねる殺人鬼のパート。もうひとつは竹本氏やその周辺の作家連中が実名で出てくるパート、そして最後が短編ミ…

高田侑「うなぎ鬼」

なんとも奇妙なタイトルに惹かれて読んでみた。ホラーサスペンス大賞といえば第一回大賞の黒武洋「そして粛清の扉を」しか読んだことがないのだが、ここからは道尾秀介、 誉田哲也、 五十嵐貴久、安東能明とけっこう活躍している作家が登場している。本書の…

伊坂幸太郎「チルドレン」

あれ?不思議。スラスラと、それもなかなか楽しんで読了しちゃった。ゆきあやさんの見立て、どんぴしゃだったみたい^^。やっぱり偏見はいけないよね。最初の作品が合わなかったからって、それで毛嫌いしちゃ作者に悪いよね。本書を読みながら、ずうーっと…

平山夢明「DINER ダイナー」

久々の平山新刊本である。彼の小説はすべて読んできているのだが、ちょっと前に刊行された「他人事」だけはあまり気が乗らなかった。読まなくてもいいやと思っちゃったのである。だからもしかしたら、このままこの人からも離れていってしまうことになるのか…

東野圭吾「眠りの森」

というわけで、加賀恭一郎なのである。つい最近、ゆきあやさんの記事でシリーズ物にたいする意見としてシリーズ物を最初から読まないのはリサーチ不足だと言い切ってしまったのだが、その禁忌を思いっきりやっちゃってるのがこのシリーズなのである。エラソ…

本多孝好「チェーン・ポイズン」

記事にはしてないのだが、この人は以前にデビュー作の「MISSING」を読んだことがあった。なかなかせつない雰囲気があって好印象だったのだが、それ以後この人の本を読むことはなかった。 今回べるさんの記事で興味を持って読んでみたのだが、なるほど…

詠坂雄二「遠海事件  佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」

この人、みなさんご存知でした?綾辻行人、佳多山大地の激賞を受けて「リロ・グラ・シスタ」で2007年にデビューした新人さんで、この「遠海事件」は二作目。現在第三作が刊行されたばかり。 ぼくも、たまたま「読書メーター」を見てまわっているときに見…

東野圭吾「新参者」

加賀恭一郎のシリーズについては、まったくの『新参者』でございます。 でも、読んじゃった。東野氏が直木賞を獲った直後に刊行された「赤い指」を読んで、初めて加賀刑事を知ったのだが、はっきりいって堂に入った名探偵ぶりは感心したものの、話自体がいさ…

結城充考 「プラ・バロック」

物語の始まりは秀逸なのだ。京浜工業地帯を舞台に、部屋中を血に染める凄惨な首切り殺人と冷凍コンテナから発見される十四体の凍った死体。これだけでがっちり心をつかまれてしまう。だが、話はそこから少しづつ失速していく。仮想空間に遊ぶ正体不明の人物…

薬丸岳「天使のナイフ」

なかなか読み応えがあった。なぜだか自分でもよくわからないのだが、もともと江戸川乱歩賞は少し嘗めていて、読むに値する本が少ないように感じてたのだが、これは良かった。 何が良いといって、ここでは犯罪を描くだけではなくてそれに巻き込まれた人々の苦…

北方謙三「逃れの街」

北方作品を読むのは、今回が初めてだ。海外のハードボイルドは一通り読んできたが、国内の作品はあまり読めてないのが現状なのだ。だから、結城昌治も大藪春彦も河野典生も読んでないし、志水辰夫も原尞も香納諒一も東直己も読んだことがない。どうも国内の…

平山夢明「SINKER―沈むもの 」

本書が刊行されたのは1996年。いまから13年も前のことだ。当時ぼくは本書を新刊で買った。表紙の写真を見てもらえばわかるように徳間ノベルズ22周年記念として『Night Mare File』シリーズの一冊として刊行されたのである。他にもいろ…

高橋克彦「緋い記憶」

本書に収録されている「遠い記憶」を以前アンソロジーで読んで、とても感心した。なんといっても、ラスト一行の戦慄は何度読んでも肌が粟立つおもいがする。ここに登場する中年の作家は、仕事で盛岡に行くことになる。彼は東京で母と暮らす身なのだが、幼い…

東野圭吾「むかし僕が死んだ家」

久しぶりの東野圭吾だと思って調べてみたら、ほぼ三年ぶりだった。前回読んだのは「赤い指」で、直木賞受賞後第一作だったと思うのだが、あれが少し物足りなかったのでちょっと離れてしまう結果となったのだ。 本書を読む気になった理由は特にない。ちょっと…

道尾秀介「鬼の跫音」

この人は以前「シャドウ」を読んでミステリとしての技巧は良かったが、話の要となるある事実に違和感をおぼえてあまり評価しなかったのである。いってみればそれは言い掛かりのようなもので、気になったとしてもスルーしてしまえば別段不都合があるわけでも…

湊かなえ「少女」

これはちょっと期待はずれだった。前回の「告白」でいままでにないブラックな手応えを感じさせてくれた作者だったが、この二作目は少し要領を得ない印象を与えてしまう。内容は、簡単に済ますと二人の女子高生が、人の死というものに興味を持って、それぞれ…

初野晴「1/2の騎士~ harujion~」

この人とのファースト・コンタクトは図書館で目にした「漆黒の王子」という本だった。ただそのタイトルのニュアンスだけで、おもしろそうなのかな?と興味はもったが、結局読むことはなかった。次に目にしたのは本屋でみた「退出ゲーム」という本。本の表紙…

誉田哲也「ストロベリーナイト」

とってもおもしろいのだが、チープな印象が勝ってしまって良い評価とならない。猟奇殺人を扱っており新手のサイコサスペンスかと思ったが、それも早々と撃沈。事件の黒幕の意外な正体もはやくから気づいちゃったりして、サプライズに欠けた。なにより登場人…

泡坂妻夫「弓形の月」

泡坂作品は独特の描写があって、戸惑い半分オモシロさ半分という感触が魅力でもあるのだが、本書に出てくる描写にはほんと驚いた。みなさん『射洞』ってご存知?『奥津城処』は?『遠津尾上』てのもあるし、『身根』っていうのも出てくる。以上はみな濡れ場…

連城三紀彦「戻り川心中」

もともとこういう雰囲気の作品は好みではない。情感あふれ、しっとり落ちついた耽美な世界。まして本書は『花葬』シリーズとして花を題材とした散る宿命の儚さを描いた連作短編ミステリーなんだそうで実をいうと読む前からいささかうんざりしていたのだ。 収…

小笠原慧「手のひらの蝶」

二年ほど前に読んだ「DZ ディーズィー」が、医学サスペンス物としてなかなかの出来だったので本書も期待して読んだ。 テイストとしては本書も医学サスペンスなのだが、そこにサイコホラーの要素が加わっていた。出だしの吸引力はかなりなもので、思わず引…

仁木悦子「冷えきった街」

本書は、仁木悦子が創造したハードボイルド小説の主人公三影潤が登場する唯一の長編である。なんてえらそうなこといって、ぼく自身仁木作品を読むのは本書が初めて^^。本来なら、デビュー作となった江戸川乱歩賞受賞作の「猫は知っていた」から紐解くべき…

飛鳥部勝則「堕天使拷問刑」

ほんと久しぶりの飛鳥部作品だ。だって、デビュー作以来なんだもの。ブログ仲間内でキワモノのBミスだなんて皆から絶賛されていて、気になって仕方なかったので読んでみました^^。 この背徳的で凄惨な印象を与えるタイトルとは裏腹に、内容はいたってノー…