まずね、このタイトルが秀逸なのね。ベンハムの独楽って、いったいどゆこと?と思ってしまうのだ。この名前は知らなくても、この独楽のことは知ってる人は多いんじゃないかな?白と黒しか使っていない模様を描いた独楽を回すと、そこに色が見えるというのだ。錯視の一例として非常に有名な仕掛けなのでおそらく誰もが一度は見たことがあると思う。
だから本書も一筋縄ではいかない本なのだろうなと察しはつく。で、次に目次を見てまた驚く。
「アニュージュアル・ジェミニ」
「スモール・プレシェンス」
「チョコレートチップ・シースター」
「ストロベリー・ドリームズ」
「ザ・マリッジ・オヴ・ピエレット」
「スペース・アクアリウム」
「ピーチ・フレーバー」
「コットン・キャンディー」
「クレイジー・タクシー」
ね?いったいどういう話なんだ?って思っちゃうでしょ?それぞれが独立した短編で、一話完結なのだがこれが微妙にリンクしてるという変わった構成。内容もバラエティに富んでいて、乙一風のちょっと残酷なサプライズ物から、クライムミステリやSFや青春物などなどいったい次にどんな話がはじまるのかわからない驚きに満ちているのだ。
内容も、まばたきする度に時間と場所を移動する少女の話や五分後の未来がみえる男の話、文字だけを食べて生きている男の話なんていうありえない話があってすこぶる楽しい。
数々のキーワードがそれぞれの話で登場し、尚且つそれぞれの登場人物があちこちにあらわれる。ああ、あの人はこうなっていたのか、なるほどこの人とこの人は繋がっていたのか、あの事件がこんなところで取り沙汰されている、てな具合。おそらく作者はこれらの短編を無作為に書いて、それを再構成したのだろうと思うのだが、その組み合わせ方にセンスがあるのだ。まだまだぎこちない部分はあるが、物怖じしない作風に好感がもてた。今後も注目したい人である。
しかし、この作者おもしろい人である。だって本書の新潮エンターテインメント大賞贈呈式のスピーチでダンスを披露したというんだから、驚いちゃうでしょ?