読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

結城充考 「プラ・バロック」

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 物語の始まりは秀逸なのだ。京浜工業地帯を舞台に、部屋中を血に染める凄惨な首切り殺人と冷凍コンテナから発見される十四体の凍った死体。これだけでがっちり心をつかまれてしまう。だが、話はそこから少しづつ失速していく。仮想空間に遊ぶ正体不明の人物たち、自殺サイトの存在、何かに向かって死を請う人々、所轄のまとまりのない臨時捜査班、そして不鮮明な主人公クロハ。舞台装置はなかなか健闘しているが、物語がそれに追いついてない感じ。十分おもしろく読ませるのだが、どこか不明瞭な夢をみているような浮遊感がただよっている。一応すべての辻褄は合うし、ばらまかれた伏線や謎はすべて回収されているのだが、そこにため息の出るような満足感はない。登場人物の出し入れがあまりにも稚拙な印象を与えるのも一因か?それに被せて彼らの動きと結末も不発気味。究極のカタルシスである犯人の決着の付け方からして、どうしてそんな処理の仕方なんだ?と素人のぼくでも頭を傾げてしまったほどだ。これがどうして賞を獲ったのかがわからない。こうなってくると、選考委員の作家たちがノータリンに見えてくる。よくあれだけ絶賛できたなと思うのだ。何度もいうが、読ませる筆力はある人だと思う。だが、本作に関してはどうしても評価は低くなってしまう。

 でも、次の作品ではもっと素晴らしいのをドドーンと届けてくれるかもしれないという期待はある。

 ちょっと、注目していようか。←何様だよ!