読書の愉楽

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北方謙三「逃れの街」

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 北方作品を読むのは、今回が初めてだ。海外のハードボイルドは一通り読んできたが、国内の作品はあまり読めてないのが現状なのだ。だから、結城昌治大藪春彦河野典生も読んでないし、志水辰夫も原尞も香納諒一東直己も読んだことがない。どうも国内のハードボイルドに関しては偏見があって、そのスタイルが日本の風土には合わないと思い込んでいるのだ。これはマフィア映画を好むくせにヤクザ映画はほとんど観ないという好みにもあらわれていると思う。

 それはさておき、本書である。北方ハードボイルド作品の中でも「檻」とならんで人気のある本書は、ぼくにとっては水谷豊主演の映画のほうを先に観ていたので、その印象が強かった。といっても、もう観たのは20年近く以前のことなのだが。真っ白い雪原を水谷豊が逃げている場面が特に印象に残っていたがそれは本書のラストの場面だったのだ。

 文春文庫から刊行されていた「東西ミステリーベスト100」では、国内ミステリの第29位。後の北方作品すべての出発点となった作品と『うんちく』には書かれている。

 だが、いま読んでみるとやはり古臭い印象は否めない。まず登場人物たちの蓮っ葉なもの言いが気に喰わないし、昭和のしょんべん臭い路地裏的な雰囲気があまり好きじゃない。要するにカッコよくないのだ。

 ストーリー的にも、それほどの盛り上がりもないし、まず第一に展開に必然が伴ってないような気がするのである。これはスタイルの問題であって、作者が意図的に書いているというのはわかるのだが、どうもその戦略にはノレないのだ。逃亡物としての旨みはあるのだが、以上に挙げた点が気にかかるのでどうも馴染めなかった。これでまた、国内ハードボイルドから離れることになってしまった。本書の解説で北上次郎が大絶賛しているが、やはり時代が変われば本質の変化する作品もあるということなのだろうなあ。