読書の愉楽

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飛鳥部勝則「堕天使拷問刑」

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 ほんと久しぶりの飛鳥部作品だ。だって、デビュー作以来なんだもの。ブログ仲間内でキワモノのBミスだなんて皆から絶賛されていて、気になって仕方なかったので読んでみました^^。

 この背徳的で凄惨な印象を与えるタイトルとは裏腹に、内容はいたってノーマルだ。構成で少しトリックが仕掛けてあるが、話的にはホラー要素もあまりないしオドロオドロしい演出があるわけでもない。

 中学生の男の子が主人公のミステリであり、排他的な僻村が舞台の一種のクローズド・サークル物といってもいい。しかし、登場する数々のガジェットはこの作者独特の持ち味がいかされていて、ツキモノイリ、ツキモノハギ、ヒトマアマ等々あまり深い意味はないのだが、舞台となる村の閉塞感と相まってなかなかおもしろかった。

 事件自体も、一瞬にして三人の首を刎ねて姿をくらました犯人の謎や、密室の中で身体中の骨がバラバラになるほど絞られて殺された死体の謎なんて不可能犯罪が扱われておりミステリマインドが快く刺激されて楽しい。しかし、これの真相については賛否の分かれるところだろう。フタをあけてみれば、片や実行不可能っぽいトリックだし、もう一方にいたってはホームズもびっくりのバカミス全開トリックなのだ。

 真相はもちろんここでは語れないのだが、ぼくは正直笑っちゃいました。

 物語のラストもキングの「トミー・ノッカーズ」ばりの阿鼻叫喚の展開で、ここにいたって作者の残酷趣味が噴出した形になるのだが、エグさはかなり控えめなので、こういうのが苦手な方も大丈夫なのではないだろうか。しかし、ここで出てくるあの化け物はいったい何なのだ?伏線として、それを暗示する描写は数々提示されてはいたが、こんなにストレートな形で登場するとは思いもしなかった。本書がバカミスたる所以である。

 読んでいて狂喜乱舞したのが途中に出てくる『オススメモダンホラー』の章だ。ここで紹介されるホラー作品は、有名どころとマニアックな作品を微妙にブレンドしてあり、ホラー・ファン心理をくすぐると共に、古本収集癖をも刺激されるというなんとも狂おしくもどかしい思いをした。ここに出てくる本の八割は読んでるか、所有している本なのだが、中には初めて見る書名もあった。ラモナ・スチュアート「デラニーの悪霊」、バートン・ルーシェ「人喰い猫」、スティーヴン・マーロウ「呪われた絵」、バーナード・テイラー「神の遣わせしもの」、マーティン・ラッセル「迷宮へ行った男」、ジェイ・アンソン「アミティヴィルの恐怖」、ジェイ・R・ボナンジンガ「シック」の以上七冊は、これからの探求本としてリストアップしておこう。それにしてもストラウヴ「ジュリアの館」はついぞ見かけたことがないなぁ。

 とまあ、こんな感じでいろいろ不満もあるが、概ね楽しんで読了した。ミステリとしての整合性や美しいロジックなどとはかけ離れた作品ではあるが、上下二段組で470ページ強の長丁場を飽きさせもせずくいくい読ませるおもしろさはあったわけで、それだけでも一読に値するといってよいだろう。