読書の愉楽

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高田侑「うなぎ鬼」

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 なんとも奇妙なタイトルに惹かれて読んでみた。ホラーサスペンス大賞といえば第一回大賞の黒武洋「そして粛清の扉を」しか読んだことがないのだが、ここからは道尾秀介誉田哲也五十嵐貴久、安東能明とけっこう活躍している作家が登場している。本書の高田侑氏も「裂けた瞳」で第四回大賞を受賞して仕事と作家の二足のわらじでがんばっておられる方のようで、調べてみると本書を含めて6冊の本が出ている。そんな彼の受賞後第一作が本書「うなぎ鬼」なのである。

 タイトルだけではまったく内容を想像することができないが、なんとなく不穏な雰囲気はある。読んでみると、これが新堂冬樹花村萬月小川勝己のようなノワール系の出だし。

 主人公の倉見勝は絵に描いたような転落の人生を歩み、逃げまわったあげく捕まり連れていかれた事務所でその巨体に惚れ込んだ社長に拾われ、千脇エンタープライズで借金回収の仕事をしている。しかし彼は本来とても臆病な性格で、見かけはその筋のものなのだが肝っ玉はからきしダメなのである。そんな彼がある日、社長から同僚の富田と一緒に『黒牟』という不穏な名の地へ向かってくれと言われる。駅前で社長と落ちあって歩いていくと東京近郊の下町っぽい風景がタバコ一本が灰になるほどの時間で一変する。

 運河から立ち上る腐臭、金属が切断される大きな音、活気のない町工場の密集地を抜けるとバラックが並び建つ貧民窟に入ってゆく。道は狭く入り組んで、右へ左へと折れ曲がる。密集して建てられている家はあるのに人の姿がまったくない。なのに、常に多くの目に見つめられているような不安がつきまとう。そうして到着したのが、物語の核心となる『㈱マルヨシ水産』なのだった。

 どうですか?こんな感じで話は進んでいくのだが、なかなか真実は見えてこないのである。まるで都市伝説のような数々の噂が飛び交うが、どこまでが本当の話なのかがわからない。だが、それらの噂を裏付けるような出来事がチラホラとあらわれては消えてゆく。

 読了しての感じとしては正直物足りない感じは残った。まず主人公の倉見の性格に共感できないし、話の決着が少々月並みな感じでインパクトに欠けた。だが雰囲気は良かった。不穏で痛々しく、ある意味禍々しい。こんな世界知らないで生きてゆければそれに越したことはないと思わせる不安感を煽ってくれる。

 ただ一つ言えることは本書を読んだら、ウナギを食べ辛くなっちゃうかもしれないってこと。いやいや、ぼくは大丈夫だけどね、でも、ホルモンに関してはあまり自信がないかな?だって、ホルモン食べててあんなのが出てきたら、卒倒しちゃうもの。