ルのニュアンスだけで、おもしろそうなのかな?と興味はもったが、結局読むことはなかった。次に目に
したのは本屋でみた「退出ゲーム」という本。本の表紙を見て、思わずパンツが見えるんじゃないかと斜
めから覗き込んだのはいうまでもない。だが、この時点で、「漆黒の王子」と「退出ゲーム」が同じ作者
だとは気づいていなかった。で、そのうちブログ内のお仲間内でこの「1/2の騎士」が話題になってき
て、やっと初野晴という名前が脳内にインプットされすべてが繋がったというわけ。
なんて遠回りをしてきたことだろう。どうしてもっとはやくこの人の本を読まなかったのだろう。ぼくは
本書を読んでいる間ずっとそう思っていた。それほどに、この作品に惚れ込んでしまったのである。なに
から話せばいいだろう?この作品の魅力を系統だてて説明なんかできないのはわかっているが、未読の人
にできるだけ本書の魅力をお伝えしたいとおもうのだ。
まず、第一に惹かれるのは、軽妙であまりにも巧みな会話文だ。絶妙の間と洗練された語彙、このふたつ
が合わさってまるで職人技のような会話の冴えをみせるのである。この会話の波に乗って、どんどん読ん
でいくうちに作者のもう一つの面、ミステリとしての構成のうまさが光ってくる。本書には各章『もりの
さる』『ドッグキラー』『インベイジョン』『ラフレシア』『灰男』というとても魅力的な犯罪者が登場
するのだが、彼らの実行する犯罪がそれぞれ独創的で揮ってるのだ。ましてそれをミステリとして昇華さ
せる作者の手腕もすばらしい。それぞれ新機軸といっていいアイディア満載で、読んでいて感心しながら
興奮するという大変忙しい状態に陥ってしまうのである。
そして、これがこの作者の特徴みたいなのだが、只のミステリに徹するのではなくそこにファンタジーの
要素を盛り込んで話を盛り上げるのだ。正直こういう設定は普通のミステリではうざったいだけなのだ
が、この作者にかぎってはそういう危惧はいっさいない。むしろ大歓迎。
本書では主人公である女子高生のマドカ(これは苗字ね)が一目惚れした相手サファイアが実は人間では
なく幽霊であるというのが、その要素。この設定が実に巧みに活かされて、ラストで小さなサプライズを
みせてくれるのである。話としてはこの二人が様々な人たちを介して上記の犯罪者と対決していくという
ものなのだが、登場するサブのキャラクターにも個性的な面子が揃っていて、445ページという長丁場
を飽きさせず、グイグイ読ませてしまうのである。
しかし、不満がないというわけではない。第一に主人公であるマドカのキャラがイマイチ微妙な匙加減で
描かれており、どっちつかずの印象を受けてしまう。また、犯罪者以外の登場人物がいい人ばかりという
のも、少し物足りない気もするし、犯罪者の描かれ方(裁かれ方)がちょっとあっさりしすぎなんじゃな
いかとも思う。
とまあ少々難もあるのだが、総じてこの作者は買いなのである。新人の作品を読んでこれだけ興奮したの
もめずらしい。本書以前に刊行された本のチェックとともに、これから刊行される新作に大いに期待する
次第なのであります。