二年ほど前に読んだ「DZ ディーズィー」が、医学サスペンス物としてなかなかの出来だったので本書も期待して読んだ。
テイストとしては本書も医学サスペンスなのだが、そこにサイコホラーの要素が加わっていた。出だしの吸引力はかなりなもので、思わず引き込まれてしまった。まして舞台が京都でもあり、いつもウロウロしている場所が頻繁に出てくるから、自然テンションも上がってくる。
だが、本書で描かれる医学的な解釈にはちょっと辟易してしまった。作者としては、この突拍子もない着想に真実味を加えるために専門的な説明を頻繁に挿入しているのだろうが、それが逆にアダになっているのだ。一般人が理解できるキャパを越えた部分で詳細に説明されてもまったく頭に入ってこない。まず一点それが気になった。あとこれは前回も気になった部分なのだが、やはり今回も展開上で御都合主義的な部分が鼻についてしまった。物語の大波に乗り切ってしまえば、それもあまり気にならないのだろうが、まだそこまでのリーダビリティは兼備えていないから、気になってしまう。
で、大事な話の部分なのだがこれは掴みとしてはOKで、なんせ若い女性ばかりが全身の血を抜かれて殺されているのだから只事じゃない。そして、その事件と並行して語られる母親を殺したと思われる九歳の少年の異常な症状。少年の治療にあたる女医と連続殺人を追う刑事が交差して、物語はクライマックスを迎えるのだが、ラストでは真犯人についてどんでん返しが待っており、これにはすっかり騙されてしまった。とまあ、話的には全然OKであり、どちらかというとすこぶるおもしろい部類に入るのだが、いかんせんこの作者の器用な部分がうまく物語に反映されてないので、読み終わってみればむしろ平凡な印象しか残らない。いってみれば、器用貧乏なのだね。
でも、この作者はそのうちやってくれると思うのである。だから、追いつづけていこうと思っている。
そのうち凄いのを書いてくれるのではないだろうか。