読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

野田サトル「ゴールデンカムイ」

 

ゴールデンカムイ 全巻 1-31巻セット[完結] コミック

 とうとう大団円まで読み切ってしまった。久しぶりに漫画にのめり込みました。読み切りはたまに読むけど、この巻数(31巻)を読み切ったのはいままで生きてきて初めてのことだ。

 ま、そんなたいそうな話じゃないんだけどね(笑)。当初は、たまたま映画観る機会があって、見終わったあとも、なんで土方歳三が生き残ってるんだ?とかそもそも刺青で金塊の場所を残すってどゆこと?とかモヤモヤする部分が強調されてイマイチの印象だったのだけど、時間が経つにつれてでもあの映画なかなかエネルギッシュで面白かったよなと思うようになり、いっちょ読んでみるかとなったのである。

 映画はこの物語のさわりの部分、漫画でいうと二巻までのお話を描いているのだが、これが原作にかなり忠実に映像化されていて驚いた。で、三巻目からがまだ見ぬ未知の部分だったのだが、北海道の大自然を舞台に繰り広げられる物語は、新鮮な驚きに満ち満ちていたのである。アイヌの文化、北海道独自の自然(生態系の境界線であるブラキストン線なんて知らなかったー!!!)特に目を引くのがアイヌの食文化で、主人公杉本佐一と行動を共にするアイヌの少女アシリパが披露する野生動物の調理法は馴染みのないものなのにも関わらず、目を奪われ、ちょっと食べてみたいと思ってしまうくらいだった(リスのチタタプ食べたくなるよねー!)。

 あと、登場人物の多彩さも目をみはるものがあって、土方歳三などの歴史上の人物しかり、独自のキャラも(変態率高めだけど)際立っていてそれぞれがちゃんと役割こなしているのも素晴らしいし、それぞれのチームがくんずほぐれつして昨日の敵は今日の友なんてのが横行して物語がうねっていくところなんか最高なのであります。

 また、ギャグセンスも一頭抜きんでてて、シリアスと笑いの緩急があまりにも巧みで惚れ惚れしてしまうのである。特に脱獄囚の一人で、杉元・アシリパコンビと常に行動を共にする白石の役立たずっぷりは、お決まりなのに毎回笑ってしまう。しかし、この男、誰にも真似できない脱獄の天才なのであります。

 とにかくサスペンス、アクションにおいてもまあ息をつかせぬとは本書のためにある言葉かよってくらい決まっていて、ため息出ちゃうくらい。過去のいろんな作品の名場面を本歌取りして、物語を盛り上げているところも興趣つきないところだし、この作者かなり引き出しの多い人なんだと驚くこと請け合い。ほんと素晴らしい体験だったと思うのである。

 でも、このフィーバーは終わった。大団円なのだが、いっぱい人が死んだ。話の中で語られる『これはまた別の話』っていうのがいくつかあったけど、その物語に出会う日はくるのだろうか。ああ、ロスってるぅぅぅぅ。