もともとこういう雰囲気の作品は好みではない。情感あふれ、しっとり落ちついた耽美な世界。まして本書は『花葬』シリーズとして花を題材とした散る宿命の儚さを描いた連作短編ミステリーなんだそうで実をいうと読む前からいささかうんざりしていたのだ。
収録作は以下のとおり。
・「藤の香」
・「桔梗の宿」
・「桐の柩」
・「白蓮の寺」
・「戻り川心中」
第一話を読み始めて、もう腰が引けてしまった。なんせ舞台は色街である。男のモノローグですすめられる話は、あの宮尾登美子の渡世人・岩伍シリーズとそっくりそのままなのだ。やっぱりこういう世界は好かんなぁと思いながら読んでいると、結構トリッキーな内容なのでちょっと見直した。
第ニ話も舞台は赤線地帯。掃き溜めのような饐えた場所での連続殺人。死体の手に握られている桔梗の花という舞台設定に鼻白む。だが、これも人間の条理の裏をかくような犯行が描かれちょっと見直す。
第三話はやくざが主人公であり、他の作品と同じくして動機の謎が中心に据えられているのだが、これは少し弱いなと感じた。ミステリとしては整合しているが、あまり現実的でない気がした。
第四話は主人公の幼少時代の記憶の謎に迫るミステリで、こういうのは好きだ。幻想風味もあり、真相も意外で申し分ない。凄惨な事件であり、女の情念の怖さが描かれ印象に残った。
第五話は表題作になるだけあって、読み応えがあった。でも、この耽美派のもっとも得意とする情死行は
あまり好きではない。動機についても理解の範囲を超えたものだった。
というわけで心底たのしんだわけではないのだが、残るものはあった。この人、こういう大正時代のような戦前を舞台にせずに現代を舞台にミステリを書いたほうがしっくりくるのではないかと感じた。どうも舞台設定とミステリトリックがうまく融合してないように思うのである。次はこの人の現代物を読んでみることにしよう。
〈追伸〉
この記事、昔からの連城ファンが読めば、今更なにを言っておるのだとお怒りになると思うのだが、遅れてきた読者の戯言だと思って温かい目で見てください。