読書の愉楽

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伊坂幸太郎「チルドレン」

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 あれ?不思議。スラスラと、それもなかなか楽しんで読了しちゃった。ゆきあやさんの見立て、どんぴしゃだったみたい^^。やっぱり偏見はいけないよね。最初の作品が合わなかったからって、それで毛嫌いしちゃ作者に悪いよね。本書を読みながら、ずうーっとそう考えていた。いつになくしおらしく^^。

 連作短篇の形で進行していく話は、時系列もバラバラだし、内容もあまり一貫性がなく共通しているのは『陣内』という型破りでとびきりの変人が登場することぐらいである。他にも共通のキャラクターはいるが、全編通して登場するのは『陣内』のみなのだ。だから、本書は『陣内』という男の物語なのだ。短篇読切という形で五つの作品が収録され、それぞれ語り手も変わるし内容もミステリを芯に据えた物ばかりでもない。それぞれの話で際立ってくるのは、各話の語り手が見つめる『陣内』という男の姿である。

 屁理屈を言わせれば天下一品で、なんの根拠もない事柄にも絶対の自信を持ち、自分の過ちは決して認めようとしない。そんな信用度ゼロの男なのだが、一旦話し出すとそのむちゃくちゃな論理展開は誰をも納得させる妙な説得力をもつ。彼の破天荒なエピソードの数々は十二分に魅力的で、誰もがこの奇妙な男のことを好きになること間違いない。そしてこれらの物語を更におもしろくしているのが、各話に含まれるちょっとしたミステリ要素だ。これはラストに向かうにつれて段々と薄れていくのだが、それでも銀行強盗にまつわる謎や奇妙な親子の謎、二時間も動かない人々の謎等々なかなかおもしろかった。

 家裁調査官なんて特異な職業の世界を舞台にしてるところも大きなプラスポイントだ。まあ、こんな調査官はどこ探してもいないだろうけどね。

 全体としてみれば、いったい作者は何がしたかったのかな?という意地悪な見方もできなくはないし、第一この本のタイトルがなぜ「チャイルド」なのかも、はっきりいってよくわからない。もっと違うタイトルのほうがしっくりくるような気もするのだが、それはまあ良しとしよう。

 とにかく、あの「重力ピエロ」を読んで、なんじゃコイツは?といきなり嫌悪感を持ってしまったぼくの呪縛を解き放ってくれたゆきあやさんに感謝なのである。苦手だった作家の作品が好きになったのだからこれは素晴らしいことだ。だって、驚いたことにぼくはもう次に読む伊坂作品をどれにしょうかなと考えているのだ。「ラッシュライフ」?「陽気なギャングが地球を回す」?さて、どれにしようかな。