読書の愉楽

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梓崎優「叫びと祈り」

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 新人さんの連作ミステリということで、五編収録されているのだが最後の一編を除いて、すべて海外が舞台になっているというなかなかの意欲作だ。描かれる国のほとんどが、いってみれば一般の旅行者からみればマイノリティに属する辺境の地で、サハラ砂漠であったり、南ロシアの修道院であったり、アマゾンの奥地であったり、もうそれだけでとても興味深いのだが、そこで起こる事件の動機がその地でしか成立しない独特のものなので、さらに記憶に食い込む仕上がりとなっている。

 はっきりいって、動機の真相についてはおそろしく現実離れしたものばかりであり、冷静に考えてみればかなり真実味の薄いものがほとんどなのである。だが、それを作品として成立させるだけの筆力があるから、読んでいて不快には感じない。むしろ、新鮮な驚きに転換されてしまうのだ。

 ぼくの好みからいえば、描写があまりにも淡々としすぎているので、もう少し粘着質というか偏執的というか生臭い部分もあれば、尚良い仕上がりになったのではないかと思うのだが、これはこの人の持ち味だから仕方がないか。

 読む前から気になっていたのは、本書が連作だということだった。読み始めて、さらにその事実に疑問をもった。これだけ散乱している題材がいったいどういう風にまとまるんだろう?連作だとわかって読んでいる読者だったら、みんな絶対そう思うはずだ。こんなに世界各国に散らばっている話がいったいどう収束するのか、見当もつかないではないか。

 それが最後では確かにみんな繋がるのである。なるほど、そういうことなのか。ラストの一編はあまり仕掛けらしい仕掛けもなく、語り手が誰かという伏線もはやい段階で気がついてしまう。ここで描かれる謎は倍率の問題だ。あまりにも近寄りすぎてまわりが見えない状況で躍らされたあとに、一気にカメラが引いて全体が視野におさまりすべてが把握できるようになっている。ちょっと強引だなと思わなくもないがきれいなラストに落ち着いたという感じだ。

 読了して思ったのは、この人の作品は絶対映像化が無理だということ。叙述トリックが幅を利かせているので、それは自明のことなのである。ぼくも一話目の『メチャボ』にはすぐ気がついたのだが、二話目の『サクラ』にはすっかり騙されてしまった。これは気づく人いないんじゃないかな。

 というわけで、この新人さんなかなかの有望株だと思うのである。以後の作品にも注目していきたい。