読書の愉楽

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門前典之「屍の命題  シノメイダイ」

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 これね、なかなかの傑作だとおもうのだが、どうなんだろ?久々に読んだ本格物で少し興奮しちゃったのかな?ぼくはとても楽しく読了できた。本書を読んだ誰もが感じることだろうが、ここで扱われるトリックはまったくもってバカミス街道まっしぐらで、もっとも印象深い『徘徊する巨大カブトムシ』の真相なんか、ほとんどキワモノホラーで、そりゃありえない事ではないのかもしれないが、おそろしく非現実的なものなのだ。

 でも、それにも関わらずぼくは本書に好印象をもった。雪山の山荘というクローズド・サークル物で、なおかつその登場人物がすべて死に絶えてしまうという『そして誰もいなくなった』を踏襲した不可能犯罪物、それに輪をかけてデビュー作という良くも悪くも横溢する情熱が何処へ向うかわからない不安定さを合わせもつという大風呂敷状態になりがちな本書を、これだけうまく纏め上げているのだから素直に帽子を脱いでしまったのである。

 最初にも書いたが、ここで描かれる殺しのトリックはそれぞれ島田荘司もびっくりのアクロバット・トリックだ。とくに最初に起こった二つの密室状況殺人の真相はちょっと笑ってしまうくらいにありえない。

 しかし、最終的にすべての真相が氷解したときに、作者の仕掛けた別の意図が浮上してきて、読者を驚かせる。なるほど、そんなメカニズムが作用してこの奇妙な事件が確立したのかと驚くのである。

 6人の登場人物がおり、それぞれが異なる方法で死んでゆく。一つのケースを除いてそれほど派手な演出はない。劇的な見せ場もあまりなく、そういった意味では少し冗長な印象も受けるのだが、読了して色々思い返すうちにこの作者なかなかよく考えているなと少しづつ印象が変わってくる。あの場面、あそこで登場人物が洩らした一言、すべてがストンと腑に落ちる。そういった意味で本書に齟齬はない。あとは動機の問題なのだが、ここで少しもたつく印象を受けはするものの違和感を感じるほどではない。

 ゆえに本書は本格ミステリとして、なかなかのめっけもんだったということなのだ。この人の本は今回がはじめてだったのだが、他の二冊もそのうち読んでみようかな。