読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

東野圭吾「むかし僕が死んだ家」

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 久しぶりの東野圭吾だと思って調べてみたら、ほぼ三年ぶりだった。前回読んだのは「赤い指」で、直木賞受賞後第一作だったと思うのだが、あれが少し物足りなかったのでちょっと離れてしまう結果となったのだ。

 本書を読む気になった理由は特にない。ちょっと軽く読める国内ミステリがないかなと思ったら、一番目につくところに本書があったのだ。背表紙の内容紹介を読んでみたら、結構おもしろそうだったので読んでみたというわけ。

 もともとぼくは記憶を探る物語というのが大好きなのだ。幼い頃の失われた記憶とか、一時的に記憶喪失になってしまった人の話とか、過去の出来事を探る物語にはミステリとしてのスリリングなサプライズがてんこ盛りだし、なんといってもそこに介在する恐怖が大好物なのだ。過去に読んだ作品では高橋克彦の「遠い記憶」やバリンジャーの「消された時間」クックの「緋色の記憶」山口瞳「血族」それと筒井康隆の「エディプスの恋人」に出てくる香川智弘とその家族の過去の挿話などが記憶に強く残っている。

 本書も然り。幼い頃の記憶がないという元恋人の頼みで、山の中に建つ洋館を訪れた私。いったいそこにどんな過去が封印されているのだろうか?

 ちょっとあらすじ紹介が強引になってしまったが、要旨はそういうことなのだ。事の顛末が起こる手順に少し疑問がないでもないが、七年前に別れて今は結婚している元彼女の願いをきいて、私は謎を解明する手助けをすることになる。舞台は問題の洋館。主な登場人物は私と元彼女。いってみれば、一幕の舞台劇のようなものである。二人は洋館に入り、そこで様々な手掛りを得て衝撃の真相に辿りつくことになる。

 これだけの内容で約300ページ。さすがストーリーテラー東野圭吾、ぐいぐい引っぱっていくページターナーぶりは頼もしいかぎりである。そこかしこに張られた伏線も見事に回収され、ラストに向けての真相解明部分はなかなかの盛り上がりをみせることになる。

 しかし、しかしである。謎の真相については、伏線の段階で予想できるものもあったりして(チャーミーのくだりとか)サプライズはそれほどでもなかった。

 だが、基本的にこういう記憶を探る物語は好きなほうなので、良しとしますか。軽く読めて、これだけ楽しめれば及第点だということで、ね。