島田雅彦の本を読むのは初めてである。「彼岸先生」とか「退廃姉妹」などは少し興味を惹かれもしたが
なんとなく読まずにきた。本書はそんな彼が書いたクライム・ノヴェル。通貨偽造事件を扱っているのだ
が、これがなんともお粗末な出来だった。
この人ってこういうスタイルなの?物語自体はよく出来た二時間ドラマのような雰囲気で、比較的安っぽ
い。出てくる人々もどことなく浮ついていてリアリティに欠けるし、筆運びそのものがあまりにも稚拙な
印象を受ける。素人が何をエラそうなことを言いやがってと思われるかもしれないが、ほんと正直ぼくは
そう感じたのである。
物語はホームレスの男が100万円の札束を拾ったことからはじまる。実はそれが偽札であり、ホームレ
スの手を離れた金が如何にして世間に蔓延していくかが描かれる。それと並行して国際的な金融犯罪を追
う美人刑事エリカと「彼岸コミューン」という胡散臭い宗教団体めいた共同体の実態が描かれる。そこに
浮上してくる一人の男。若くしていくつもの修羅場をくぐりぬけ、中国を本拠に巨額の資金を操る謎の男
野々宮。そして警察の捜査に協力する、偽札鑑定のスペシャリスト・フクロウ。様々な人物が登場し、膨
らんでゆく事件はやがて国家をも揺るがす大事件へと発展してゆくのだが・・・・。
どうですか?おもしろそう?このサワリの紹介を見たかぎりでは読んでみてもいいかな?と思うでしょ。
でも、これが食わせ物だ。おもしろくないわけでなく、しっかり最後まで読み通すだけのリーダビリティ
はあるし、経済流通に関するしっかりした知識もそこそこ得られる。だが、それが描かれる過程に少々問
題があるのだ。もしかしたら、これドラマ化か映画化されたりするかもしれない。映像化されれば、それ
はそれでおもしろいのかもしれないが、それだけのことである。小説のもつ本来の滋味に欠けた作品だと
いうことに変わりはない。
誰かお仲間さん、読んでみませんか?どういう感想を持たれるのかが知りたいと思うのである