時代物の短編集となっているが、六編中ラスト一編だけは現代物だった。ちょっと変わった構成だね。
でも、このラストの一編である「夏の飾り」はなかなか凄いミステリになっていたので驚いた。以前アンソロジーで紹介した筒井康隆編「異形の白昼」に収録されていた笹沢左保「老人の予言」を想起するような作品で、誰もがラストにいたってアッと言ってしまうはず。よくもまあ、こんな話思いついたものだ。
他の作品はすべて時代物なのだが、中でも特筆すべきはあとがきで著者が『なくしたと思っていた思い出深い物語が、みつかった』といっている「十五歳の掟」だろう。この短編が雑誌に掲載されたのが1979年だというからデビューして6年後の作品だ。著者がはじめて書いた時代短編でありずっと温めつづけた素材だったそうなのだが、掲載誌と発表年がわからなかったので埋もれてしまうところっだったのを編集者が日本近代文学館、国会図書館に足を運び、みつけだしてきたのだそうである。本書の中でも一番長い短編で70ページ近くあったのだが、まさしく一気読みだった。なんとも凄惨な話で、いってみれば時代物残酷物語なのだが、章ごとに切りかわる場面転換の妙とめずらしい流罪の迫真描写がいつまでも記憶に残ってしまう傑作である。くわしいストーリー紹介は避けよう。これは皆川ファンなら必読ですぞ。
他の作品では「吉様いのち」が印象深い。川を流れてくるミニチュアの屋形船。拾い上げて精巧に作られている障子を開けてみると、中にはお互い短刀を刺し違えて心中している二体の人形。もう、この導入部だけでがっちり心を掴まれてしまう。途中にはさまれる生人形や見世物人形の詳細な紹介もおもしろかった。この短編もラストでは凄惨美満開となる。
「闇衣」は著者の幻想趣味がうまく発揮された好編。女の髪にくびり殺される漁夫や、葉桜宵に宴会する異形の集団が登場する。さまよい歩く主人公の運命やいかに。
「少年外道」もまた凄惨な話である。磔獄門の場面が頭にこびりついてはなれない。この感覚は谷崎潤一郎の「武州公秘話」に通じるものがある。皆川女史も大好きだったんだろうなぁ。
「雪女郎」は表題作であるにもかかわらず、あまり印象に残らない作品。でも、この循環する構図は皆川幻想文学に特有で、これがあるからこそあの幻惑感が生まれるのである。
というわけで、全作品順不同で簡単に紹介したが、今回もかなり堪能した。やはり探し出して読むだけの価値はある。これからもどんどん読んでゆきますゆえ、みなさまどうぞお付き合いのほどよろしくお願い致します。