読書の愉楽

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津村記久子「カソウスキの行方」

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 あまりにも気に入ったので、また読んじゃった。

 やはりこの人はいい。先の感想にも書いたが、連綿と続く主人公のモノローグっぽい思考の連鎖がとても心地いい。そこに内包されるユーモアも絶品だし、かといって軽いわけではなく、人間関係や人生においての薀蓄なども自然と語られ好感がもてる。そう、この人の書く話はおもしろうて少し手痛い。愉快な気分で読み進めていると、クッと身につまされたり、うーんと考えさせられたりするのである。

 本書には三つの短編が収録されている。それぞれがとても短く、全体でも140ページほどしかないのですぐ読めてしまう。

 ひとこと言及しておきたいのは、やはり表題作の「カソウスキの行方」だ。これは、ちょっとした勘違いで示した正義感により、体良く左遷された28歳のOLイリエが主人公のお話。郊外の倉庫管理というなんとも味気ない職場にあって、同僚の一人である無駄に背の高い森川を仮想的に好きになってみることで鬱屈した日々に光を求めようとするのだが、これがなんともバカらしく思える思いつきなのに、グイグイ読まされてしまうから不思議。なにがおもしろいといって、この人の描くちょっと疲れ気味の怠け者で軽く自堕落な女性像が最高だ。適度なユーモアと辛辣な評価。こういう女性が側にいると正直疲れるのかもしれないが、第三者的に眺めるのは大いに楽しい。かといって、ニヒルなわけでもなく適度にやさしさもあるからやっぱり魅力的なんだけどね。

 他の二編はほんとに短い作品で「Everyday I Write A Book」もなかなかダメダメな女性が出てきて笑わせてくれる。ほんと、この人の書く人間像ってリアルだよね。感情の波とか、頭を打たれる出来事とか、日常でついやってしまう自分の甘い行動とか、ほんとこういうのあるよなぁと共感してしまうのである。嫌なものをついつい見てしまう不条理な行動とか、人を好きになっていく過程とか、なんでもないけど誰もが経験しているささやかなことをクッキリと切りとる術に長けているなぁと感心してしまうのである。

 「花婿のハムラビ法典」はこの作者にしてはじめての男性主人公物なのだが、これも良かった。女性に翻弄されるかわいい男が描かれているのだが、この男もかなり変わっていて相手がデートの待ち合わせに遅れたり、ドタキャンするのを不義理ポイントとしてカウントし、自分もそれに対して不義理で返そうと考えてしまうのだ。つまり相手がデートに遅れると次のデートでは自分が故意に待ち合わせ時間に遅れる。

 相手がデートをキャンセルすると、次は自分もキャンセルするという具合。まあ、いってみれば痛み分けみたいなものなのだが、これを大真面目に実行する男がさらに倍返しのような感じで彼女からボーナスポイントをくらってしまうのがなんともおかしい。ちょっと哀愁の漂う、でも決して暗くはならないお話だった。

 というわけで、二冊目の津村本もたいへんおもしろく読了した次第である。ほんと、この人ツボだわ。