またまた皆川短編集である。やはりこの人は短編において素晴らしく鮮烈な作品を数多く書いていて、本書に収録されている八編においてもそれは言を俟たないのである。
収録作は以下のとおり。
「風」
「悦楽園」
「猫の夜」
「人それぞれに噴火獣」
「舟唄」
「丘の上の宴会」
「復讐」
「暁神」
この中でもっともインパクトがあったのがタイトルも奇異な「人それぞれに噴火獣」である。歴然としたアンファンテリヴル物なのだが、ぼくはこれほど悪意の横溢したこのテーマの作品を読んだことがなかったので、唖然としてしまった。いやそれでは言葉が拙い。あまりのショックに気分が沈み込んでしまった。こういう展開になろうとは。悪意を通りこしたあまりにも悪魔的な印象だった。これと似た感触だったのが「復讐」だ。子どもにこんなことしちゃいかんよ。あまりにもショックが強いので、気分が悪くなってしまった。でも、このインパクトがあるから皆川短編の魔力には抗えないのかもしれない。
あと、あの傑作短編「結ぶ」の系列に連なる奇想とグロテスクが混在しているのが「悦楽園」。どうしてこんな話を思いつけるのか不思議で仕方がない。これはやはり皆川博子にしか書けない作品だ。陶酔にも似た感覚とともに強くそう思った。出だしの一行でノックアウトされたのが巻頭の「風」。『庭は寝返りをうって背を向けた』だもの、もうシビれちゃいます。意外とトリッキーなのが「丘の上の宴会」。よくあるパターンなのだが、これにはまんまと引っ掛かっちゃいました。「暁神」もすごくおもしろい。倒置される事象が効果的な小品。「猫の夜」と「舟唄」もどす黒い滞留が渦巻いているような眩暈感にとらわれる。
いままで読んできた皆川短編集の中で本書は一番ショッキングな一冊だといえる。とても強烈なので、一気に読んではいけません。そんなことすると、脳がクラッシュしちゃいますよ。