読書の愉楽

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ジョン・ブラックバーン「小人たちがこわいので」

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 モダンホラーの原点といわれるブラックバーンの代表作である。まったくの白紙状態で読み始めたのだが当初はこの秀逸でゾクゾクするタイトルと、モダンホラーの原点という謳い文句に、真っ向勝負の恐怖譚なんだろうと勝手に予想していた。

 だが、蓋をあけてみればこれがまったくの予想はずれ。しかし、それはいい方向に外れていたのである。

 それでもプロローグは雰囲気十分だ。娼婦のもとにやってきた元気のない男。ただ一晩側にいて一緒に寝て欲しいと懇願するだけの男に興味をもった娼婦は、彼の身の上話を聞いて自分の胴元で占い師でもある男に引き合わせる。男を悩ませる悪夢の話。細部にいたるまで、何一つ変わらない悪夢を毎晩みているというのだが、彼はいきなり窓から身を投げてしまうのである。

 そして、場面は変わっていきなり話は海洋汚染の話になる。北アイルランドのリンスリート河口湾にある工場や原子力発電所の廃液が河口に放出され、海洋が著しく汚染されているのではないかというのだ。ここから話は本筋に入っていくのだが、これがいったいどういう方向に進もうとしているのか皆目見当がつかないのである。汚染、飛行機の爆音、北ウェールズ山地に伝わる童謡と伝説。これらのキーワードからいったいどんな真相が導き出されるかわかる人なんていないだろう。だから本書にはミステリ的な興趣もある。いったいどんな答えが導きだされるのか?途中で起こる殺人はいったい誰が犯人なのか?

 様々な憶測をはらみながら物語は進行してゆく。はやく真相を知ってすっきりしたいのだが、いったいどういう真相が待っているのか知るのが怖い気もする。

 で、いったいどんな真相が待っていたのかって?それはバラすことはできないが、モダンホラーの名に恥じない出来栄えだということは保証しておこう。本書を読んだことでジョン・ブラックバーンという作家は忘れ得ない作家名となった。謳い文句に偽りなし。間違いなく本書は、レヴィンの「ローズマリーの赤ちゃん」と並んでモダンホラーの原点だと思う。ほんといろんな意味でモダンだから読んでみていただきたい。