読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

栗田有起「オテル モル」

イメージ 1

地下十三階、完全会員制で日没時にチェックインし日の出とともにチェックアウトする眠るためだけのホ

テルが「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」である。この仰々しい名前のホテルは、『悪夢は悪魔』

という標語のもと、お泊りいただく会員様がぐっすりと快眠していただくためだけに存在するホテルなの

である。

そこへ、フロントデスク募集の広告をみて本田希里が面接にやってくる。彼女はその場で採用され、翌日

から試用期間としてホテルに就業することになる。

まさにありえない設定の話なのだが、これがなかなかおもしろい。まず希里の家庭環境自体がありえな

い。彼女には双子の妹沙衣がいて、彼女は現在病気療養で入院生活をおくっており両親はそれに付き添い

病院の近くに部屋を借りており、家には沙衣の夫と小学低学年の娘しかいないのである。いってみれば、

どこまでもファンタジーなお話なのだ。

この双子の妹は、顔は瓜二つなのに性格は正反対で、その破天荒な性格は自堕落と破滅の合間を行き来し

ておりヤク中になってしまっているのだが、常に彼女は主人公であり姉の希里は添え物的な扱いをうけて

いる。沙衣の夫も元々は希里の恋人だったのである。いったい、この家庭はどうなっておるのだ。

そんな希里が、眠りをかきたてる死に顔だという理由で『オテル モル』に採用されて後、なんともフワ

フワとしたホテルでの就業風景が描かれるのだが、これがとりたてておもしろいエピソードもないのに結

構読ませる。物語は破綻しており、希里の複雑な家庭環境と眠るだけのホテルとの関係もきれいに収束は

していない。でも、これがなかなか心地いい。この人の作風が合っているんだろうなぁ。本作は三作目の

作品であり、この前に「ハミザベス」「お縫い子テルミー」というのがあるのだが、これも順次読んでい

くつもりである。なかなかいい人見つけちゃったなぁ。