第9回小学館文庫小説賞の優秀賞受賞作なのだそうである。だけど本書はハードカバーなのだ。変なの。
ま、それはおいといて。なかなか楽しめた。本書の舞台となるのは、もうすでに崩壊してしまっている家
族の家。主人公はエリート街道まっしぐらで大学に入学した途端、引きこもりになってしまった比良山文
也。母智恵子はキッチンドランカーでほとんど廃人状態だし、妹結美はグレて不良仲間とつるんでる。そ
して影の薄い父浩三は借金をつくって失踪してしまう。借金取立てのため、腐りきった家に突然闖入して
くるヤクザ。圧倒的な暴力の匂いを発散させるこの岩田がやってきたところから家族の再生がはじまって
ゆく。
いってみれば、よくありがちな展開なのかもしれない。堕落しきった家族が、異物の介入によって化学変
化を起こしたように変わってゆくところなど、まさにドラマ的要素ではないか。だが、こういう展開はあ
りうる話だと思う。あまりにも激しい暴力の前では人は無力にならざるを得ない。弛緩しきったいままで
の日常が絶たれ、不本意ながらもそれを受け入れ生きる道を模索し、順応してゆく姿は哀れでもあるがそ
れが恒常化してしまえば、当たり前の日々となるのである。
そんな風にして、この家族は再生してゆく。おそらく岩田の存在がなければ、この家族は悲惨な末路を辿
ったことだろう。そして、注目すべきは失踪してしまった父の存在。引きこもりだった文也が、岩田怖さ
に嫌々家から追い出され、足で歩いて捜し出した父の本当の姿はある意味ショッキングだ。
住む家があり家族という存在があったとしても、みな心が離れて会話を交わすこともなければ、お互い干
渉しあうこともなくなってしまったら、それはホームレスと同じようなもの。家族がそういう風になって
しまった根本の原因ともいえる父の存在が少し浮いてるようにも感じるが、それはご愛嬌。さらさらと読
めてこれだけ愉しませてもらえれば、いうことなしではないだろうか。ラストなど、ヤクザが家にいるの
もいいもんだなと思えてしまうから不思議ではないか。