読書の愉楽

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ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン「死神の友達」

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 このとてもユニークな造本でバベルの図書館シリーズが刊行されだしたのは、もう三十年ほど昔のことである。その当時、ぼくはまだボルヘスの作品は一つも読んでおらず、かといってまったく知らないというわけでもなかったから、けっこう気になっていたシリーズではあった。最近になって、全6巻の新編として再刊されたが、こちらはなかなかスッと手を出せる値段でもなく、ぼくにとっては高嶺の花子さんだ。だから、この旧版をちびちび集めていこうかと考えているのだが、これがなかなかうまくいかない。やっとこのアラルコンが収録されている28巻を手に入れて読んでみたのはいいが、これがかなりの難物ときたもんだ。

 難物と書いたが、決して理解しにくい難解な物語が展開されるわけではない。ストーリーの骨子はいたってシンプル。一人の青年が紆余曲折を経て人生に見切りをつけ、自ら命を絶とうとしたときに死神が現れ「やあ、友達!」と声をかけたことからこの青年の新たな人生が始まるというシンプルストーリーだ。アラルコンは1800年代に活躍したスペインの作家で、本編は彼が山羊飼いの口から聞いた民間伝承がベースになっているそうで、ラスト近くまではかなり端折った感のある、とんとん拍子の話で、ああこれはこだわりのない自由奔放な物語だなと、ある意味微笑ましく感じてさえいたのだが、ラストへきていきなり壮大なコスミックな展開になるから驚く。いままで寝物語にシェヘラザードが語っていたのに、横からいきなりアシモフハインラインが割り込んできて、ぼくの肩をむんずと掴み、頭がとれそうなほど激しく揺さぶって、無理やり俺たちの話を聞け!と中断されたような感じだ。へー、こんな事になっちゃうの?ある意味、新鮮だ。まったく予期していなかったこの展開はぼくをとても遠いところに連れていった。これが民間伝承発信だなんて、スペインって凄い国だなと感心した。

 次に収録されている「背の高い女」は、正統派の怪談だ。あんまり怖くないけど、この背の高い女のイメージは不気味。こんなのが立っていたら、ぼくなど卒倒してしまうのではないだろうか。

 というわけで、本書辛気臭いにも関わらずなかなかのハイブリットぶりなのです。このシリーズこんな作品ばかりなのかな?いったいこのバベルの図書館を制覇した人はいるのだろうか・いるのなら、どれがオススメなのかご教授願いたいものである。

 あ、最後に本書の訳文はかなりの読みにくさだった。これが原文のせいなのか、翻訳のせいなのかは、よくわかない。それにしてもまわりくどい文章だったなあ。