読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

オルハン・パムク「無垢の博物館(上)」

無垢の博物館 上 (ハヤカワepi文庫 ハ 2-5 epi103)

 無論オルハン・パムクも初めてだし、トルコの作家の手になる小説も初めてだ。しかも、本書の物語が描かれている年代が70年代なのである。当時のトルコにおいて男女の恋愛は、大前提に結婚があり、婚前交渉などはもってのほかという風潮だ。ま、ここらへんは当時の日本も似たり寄ったりだったんじゃないかとは思うのだが、しかしトルコといえばイスラム教。戒律的になにかとややこしい。
 
 で、本書の主人公であるケマルは婚約者がいるにもかかわらず、偶然出会った親戚の娘フュスンと関係をもってしまう。幼いころに一緒に遊んだこともあるこのひと回りも歳下の娘は、一度はお互い愛を誓った仲だったのに、ケマルが曖昧な態度をとったがために離れていってしまう。

 失ってはじめてその存在の大切さを思い知るのは世の常であり、ケマルもそういう状況におかれてはじめてフュスンを激しく求めるようになる。そのためフュスンのことで頭がいっぱいになり、婚約者との関係も破棄され、よりどころも失くすことになる。ここからがこの上巻のメインとなるのだが、このケマルという男は、まったく潔くなく未練がましくフュスンを追い求めるのである。

 それは悔恨の彷徨だ。女々しいことこの上ない。ぼくが同じ立場だったとして、まずこうはならないと断言できる。そういう思いで読んでいると共感も同調もできないから、冷めた目でみてしまう。というか、彼の行動に引いてる自分がいる。だって、彼女の触れたものや、残り香のあるものに執着して、そこに慰めを見いだすなんて。

 そこまでして、追い求めるフュスンはまったく姿を見せない。消えてしまったフュスン。しかし、上巻のラストでついにケマルは彼女と再会する。しかしそこには思いもよらない再会が待っていて・・・・。

 というわけで、下巻いってみよう!