読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

イザベル・アジェンデ「日本人の恋びと」

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 サンフランシスコの高齢者養護施設で働くことになったイリーナ・バジーリィは、そこでアルマ・ベラスコという一風変わった大金持ちの入居者と出会う。イリーナ自身モルドバ出身の身寄りのない身なのだが、このポーランド生まれのアルマと彼女は強い絆で結ばれてゆくことになる。そして、そこで明かされてゆくアルマが辿ったあまりにもドラマチックな人生と生涯をかけた愛。本書は、そのアラベスクをアジェンデがミステリアスに崇高に描いた素敵な物語だ。

 ほんとアジェンデ久しぶり。扶桑社文庫から刊行された「ゾロ 伝説の始まり」以来だからほとんど10年ぶりだ。アジェンデは「精霊たちの家」で出会ってからの大ファンで、刊行された本はほとんど読んでいるのだが(「ゾロ 伝説の始まり」と「パウラ、水泡なすもろき命」は未読)、本はいっぱい書かれているのに未訳作品がまだまだ多いんだよね。

 で、今回の最新長編なのだが、これが素晴らしかった。正直いってぼくがアジェンデを好きなのは「精霊たちの家」が素晴らしくて、完全にノックアウトされたからで、その後の作品はおもしろいけども処女作をこえるものではないなと思っていた。「エバ・ルーナ」も「天使の運命」もすごくおもしろいんだけど、なんか軽いなと感じていたのである。本書もそれと似た感じなのかな?と勝手に思っていたのだが、これがなかなか読み応えのある作品だった。

 最初にも書いたが、本書はある女性の生涯を振りかえる話がメインとなっている。しかし、それがオーソドックスな回想になっていないところがうれしいところ。どういうことかというと、本書には数々の謎、謎?う~ん謎だな。そう謎があって、それが徐々に明かされてゆく構成となっている。その謎は、メインのドラマチックな人生を歩んだアルマに関するものから、最初に登場するイリーナ・バジーリィに関するものまで色々あって、ラストに向けてすべての真相が明らかになるところなどは、ちょっと軽めのカタルシスまで感じさせてくれる。なかなかに山場満載の本なのだ。
 現代を舞台としながら、回想によって歴史の暗部も掘り起こし、それに翻弄される人々を自在に時間を行き来しながら描いてゆくところなど、まさに独壇場。アジェンデ様万歳といったところ。まさに、彼女の紡ぐアラベスクは喜びと悲しみのつづれ織り。老いと愛と恋。世の人たちが等しく体験するこの普遍を享受する喜びを噛み締めた。

 ま、もともと好きな作家だからもう賞讃しかないわけなのだが、その欲目をさっぴいたとしても本書は年間ベスト級の本なのではないかと思うのである。だって、ぼくはもうこれを年間ベストに絶対入れると決めちゃったもの。ほんと、アジェンデ大好き。もっと翻訳お願い致しまする。