読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

フェルナンド・イワサキ「ペルーの異端審問」

 

 

ペルーの異端審問

ペルーの異端審問

 

 

 本書で取り上げられているのは、すべて史実なのであります。十七の短編(掌編?)として描かれるのは、すべて性にまつわる事件。異端審問って暗く残虐で陰惨で血生臭いイメージがつきまとっているんだけど(ぼくだけ?)、本書からはあまりそういう印象は受けない。ペルーという国の持つ陽気さなのか、それとも題材が題材なだけに少し緩んでしまうのか、どことなくユーモアさえ感じてしまう。

 それは、作者の筆にも寄る。事実を並べ奇異な事件を描写し(その事柄自体が大いにユーモラスな場合も多い)最後にまるで落語のように落として締めくくる。話術としての風格はないにしても、その姿勢が笑いを誘う。結局、結末は哀れなものになってしまうことがほとんどなのだが、それでもさほど陰惨な印象は受けない。

 でも、ほんと宗教の名の下にいったいみんな何やってるのさ?公然とこういうことがまかり通っていたという事実に驚くよね。性にまつわる多くの事柄はアダムとイヴの頃から原罪として扱われているが、仕方ないじゃない、それが人間の本能なんだから。原罪は連綿と続く人間の宿命なのだ。ま、道徳的または倫理的に許されない行為があったとしても(強姦は別として)何も命を取られることはないんじゃないの。それを目くじら立てて神に叛いたとか、悪魔に心を売ったとかおかしいっての。それを真剣に大いに真面目に断罪していたんだから、ほんと驚く。境界線を越えるということが、これほど簡単にできてしまうという人間の本質に怖さを感じる。自分がどちら側にいるべきなのか、その時自分がどう感じどう動くのか、全く想像できない。それほどにこの史実は異端だ。

 というわけで、かなり薄くてすぐ読めちゃう本だけど、脳の片隅に何か残ります。