読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

アンドレーア ケルバーケル「小さな本の数奇な運命」

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 短編といってよいほどの作品だ。本が自らの人生を語るという設定は、いままで読んでいるようで実は読んだことがない。本書の主人公である『本』は、実在の本なのだが、それが誰のなんという本なのかが最後まで明かされない。

 一九三八年に出版され、作者はノーベル文学賞の候補にもあがったことがあって、刊行当時はけっこう評判になった等の手掛かりは所々に書かれているのだが、ぼくにはわからなかった。まったく見当つかない。

 で、その本が生まれてからの六十年あまりを振り返るというのが本書の内容なのである。まあ、これが本好きとしてニンマリしてしまうわけなのだ。おそらく本が意識をもっていたら、きっとこうだったのではないだろうかという可笑しさにあふれている。

 その本もだんだん落ちぶれて、古本屋の本棚におさまってしまうことになるのだが、それ以後の言動は、まさしくこうあるべしなんだろうなと膝をたたいてしまうほどのリアルさで笑わせてくれる。


 けっして、心に残る素晴らしい本ではないが、本好きにとっては心をくすぐるマニア泣かせの本であることに間違いはない。

 しかし、この邦題はいただけないね。

 だって、まったく『数奇』な物語じゃないもの。誇大広告もいいところだ。